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今日はみんなで料理をしようか!



 クレアはパチンと手を打つ。


「さ、この話はおしまい。二人とも泊まっていくだろ? 何が食べたい?」

「美味しいのー」


 ご飯の話だと気付いたフィルは、目を輝かせて右手を上げる。


「アバウトだなあ。リタは?」

「私の食事はワンパターンになりがちなので、帰っても再現できるものがいいです」


 少し考えたリタはそう答える。リタ一人なら毎日同じような食事でも構わないのだが、フィルが来てからはそれはどうなのかと考え始めているのだ。とは言っても、ほぼ毎日焼き魚を食べているのだが。

 クレアは少し悩み、ポンと手を打った。


「じゃあ、今日はみんなで料理をしようか!」




「さ、使用人たちには伝えてきた。ここにある食材はなんでも使っていいそうだ」


 キッチンに移動したクレアは大きな貯蔵庫を開く。例の魔法陣が描かれているのか、中からは冷たい空気が流れてくる。肉や魚や野菜、調味料など様々な食材が丁寧に並んでいるのを見て、リタは目を輝かせた。


「わあ、すごいです!」

「肉と魚、どっちがいい?」

「おにくっ!」


 フィルは間髪入れずにそう答えて貯蔵庫に手を伸ばすが、リタがそれを止める。


「すみません、お魚で」


 特別裕福なわけでもないリタの家に、頻繁に肉を買うだけのお金はない。それに気付いたクレアは、それなら魚料理の方がいいだろうと頷いた。

 しかし、ここでリタには疑問が浮かぶ。


「あの、クレアさん。お料理できるんですか?」

「で、できるぞ!」


 慌てて貯蔵庫の扉を閉めたクレアは「待ってろよ!」とキッチンを飛び出した。




「よーし、じゃあ今日は、えーっと、ホイル焼きを作る!」


 しばらくしてレシピを手に戻ってきたクレアは、長い金髪を高い位置でくくってそう宣言する。フィルには青、リタには赤いエプロンを渡し、自分もエプロンをつけて準備万端だ。


「えーっと、魚とキノコ……それと……」


 クレアはレシピ片手に貯蔵庫を漁る。ポニーテールが揺れて可愛い。そんなクレアを見ながら、リタはフィルが雑に結んだエプロンの紐を結び直していた。


「はーい、じゃあ始めるぞ」


 リタがレシピを覗くと、丁寧な字とイラストで説明されている。工程は簡単だった。

 アルミホイルに魚の切り身とキノコ、好きな野菜を乗せる。そこにオイルを多めに垂らし、胡椒を振る。あとはアルミホイルでしっかり包み、焼くだけで完成だ。


 たぶん使用人の方がクレアさんにも出来るような簡単なレシピにしたんだろうな、とリタは微笑ましくなった。その一方で、まだ見たことのない使用人は本当にこの城の中にいるのだな、と不思議に思った。




 ホイル焼きはフィルにも簡単にできた。完成品をダイニングに運ぶと、テーブルの上にはパンやサラダが並んでいる。またもリタは使用人の姿を見ることができなかった。


「「「いただきまーす!」」」


 アルミホイルを開くと白い湯気が立ち、いいにおいが広がる。


「んー、おいしー!」

「自分で作ると美味しいんだよ」


 頰に手を当てて大袈裟に喜ぶフィルに、クレアは微笑んだ。肉が食べたいと言っていたフィルだったが、満足そうに魚を頬張っている。



 そんなこんなで和やかに進んでいた夕食だったが、突然クレアのペンダントが光ってその雰囲気は一変する。

 胸元で光るペンダントを握ったクレアの明るかった顔は、一気に曇った。


「どうしたー? ……は? わかった、すぐに向かう」


 初めて会った時以来の真剣な表情に、フィルとリタの手は止まった。相手の声は聞こえないものの、よくないことが起こったのだと二人は顔を見合わせる。


「ごめんな、お泊りはキャンセルだ」

「大丈夫ですか?」

「相手も混乱しているようで、よくわからん」


 早口でそう言ったクレアは椅子から立ち上がり、テーブルに残ったパンをフィルに持たせる。持って帰れということなのだろうが、意図の掴めていないフィルはされるがままだ。


「すぐに魔法陣を描くから、庭に出ようか」


 クレアは二人の手を引き、早足で庭へ出る。「フィルに描かせますから、クレアさんは行ってください」と言おうとしたリタだったが、余計に迷惑をかけそうだとすんでのところで思いとどまった。


「バタバタしてすまなかったな、また来いよ!」


 一瞬で描き上がった魔法陣は暗闇で青く光る。二人が慌ててそれに飛び乗ると同時に、向こうから何かを言いながらサクが走ってくるのが見えた。




「何があったんだろうね……」


 村に戻ったリタはそう呟く。フィルは貰ったパンをかじり、首を傾げた。


 クレアが慌てていた理由を二人が知ったのは、それから二日後のことだった。


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