リタパパ?
リタの母親の名前をニーナとし、42,43話を少し書き換えました。話の流れは全く変わっていません。
ニーナが家に帰ってきてから二日が経った。
「ニーナ!」
「ぅわっ!」
リタが夕方の水撒きを終え家に入った瞬間、玄関が勢いよく開かれた。威勢の良い声が家中に響く。
あまりの大きな声に、リタは耳を塞いで恐る恐る後ろを振り返った。
「ああ、お父さん」
「ママが来なかったか!?」
リタの父親——ジャグは、久しぶりにあった娘に見向きもせず家の奥を覗く。
「来てるけど」
「どこだ!」
「そこ」
リタはソファでじゃれ合っている母親とフィルを指差す。リタの指の先を見たジャグは、ソファの前に飛び出した。
「ニーナ! 俺が悪かった!」
勢いよく深々と頭をさげる。ニーナはフィルを撫で回していた手を止め、ジッと下げられた頭を見た。
「リタパパ?」
「フィル、こっちにおいで」
突然家に入ってきた男性をリタの父親だと認識したフィルは、首を傾げてリタに問いかける。リタはそんなフィルを二人から遠ざけてダイニングの椅子に座らせた。
なおもジャグは頭を下げ続けている。
「俺の考えが古かったよ」
「そうよね」
「よく考えれば俺たちが旅を始めたのだって、知らないことを知るためだったんだよな」
「そうよ」
頬を膨らませたニーナはそっぽを向いている。
「汗くさいからシャワー浴びてきてくれる?」
「わ、わかった!」
一目散にお風呂場へ走っていった夫を見て、ニーナは呆れたような顔をする。しかし、どこか嬉しそうに口角が上がっている。
「騒がしくしてごめんね」
ニーナはソファから立ち上がり、フィルの頭を撫でる。撫でられることに慣れてきたフィルは、もうニーナの手など気にも留めていない。
「どうしてお母さんがここにいるってわかったのかな」
「夫婦ですから」
母親の意味深なウインクにリタは首を傾げる。夫婦にしかわからない何かがあるのだろうか。
「はあ。仲直りしたならいいけど」
「リタ、久しぶりだな!」
「わ、やめてよ」
お風呂上がりで髪が濡れたままの父親に抱きしめられ、リタは胸を押し返す。
「元気だったか?」
「元気だよ」
そうか、と笑ったジャグをフィルが見上げる。
「リタパパ、笑うとリタによく似てるねー」
「ああ、リタが小さい頃はよく言われたんだよ
で、君は? リタのお友達かな?」
ジャグがフィルの頭に手を置いて尋ねると、ニーナが寄ってきてフィルを抱き寄せた。そのまま得意げに頭を撫でる。
「フィルちゃんよ、可愛いでしょう」
「ああ、君の好みだろうなと思ったよ」
ははは、と乾いた声で笑う。妻の可愛い子好きは諦めているのだろう。
「夕食の準備するんだけど、どうするの?」
リタはフィルを交互に撫でている二人に声をかける。両親は目を合わせて頷いた。何も言わずに分かり合ったのか、ニーナが口を開く。
「今日は休んで、明日出かけるわ」
「材料、三人分しかないけど」
買ってきた食材も、突然の母親の帰宅で使ってしまった。そう伝えると、ジャグは驚いた顔をした。
「な、なに……じゃあ釣ってくる!」
そう言って何も持たずに飛び出していった。家の裏の倉庫の方からガサガサと音が聞こえる。ジャグが釣り竿を探しているのだろう。
「見てくれー、大漁だ!」
二十分ほどで帰ってきたジャグの持つバケツには、十匹ほどの魚が泳いでいる。
「うわー、リタパパすごーい!」
「だろう?」
バケツの中を覗き込んだフィルの尊敬の眼差しに、得意になって胸を張る。
「リタはこんなに釣れないもんねー」
「フィル、それこっちに持ってきて」
馬鹿にしたように笑ったフィルは、えー、と面倒くさそうに答えて渋々キッチンへ運んだ。
「フィルちゃん、やっぱり一緒に行かない?」
「……いかなーい」
次の日の朝早く、ニーナ抱きしめられたフィルは大あくびで面倒くさそうに答える。二人の次の行き先は結局、魔族の国に決まったらしい。
一方、ジャグはリタの頭に手を置いて微笑みかける。
「リタ、長い間一人にして悪いな」
「大丈夫」
「友達ができていて安心したよ」
未だ頭をわしゃわしゃとされているフィルにチラリと視線を送って、優しい顔をする。
「何かあればすぐに町の大人に言うんだぞ」
「わかってる」
「本当に大きくなったな」
ニカッと笑った父親はリタの頭を撫でる。くすぐったい気持ちになったリタは、ふふふと微笑んだ。
「よし、そろそろ行くか。じゃあまたすぐ帰るからなー」
そんなこと言って、どうせまた長い間帰ってこないんだろう、とリタは思った。
ニーナはフィルをギュッと抱きしめ、そのあとリタを同じように抱きしめる。
「フィルちゃん、リタをよろしくね。
リタ、体には気をつけてね」
そう言ってもう一度リタだけを抱きしめる。先に歩き出したジャグを追いかけ、ヒラヒラと手を振った。
両親を見送ったリタは、隣に立つフィルを見る。
「ふぁあ、眠い……」
「もうちょっと寝ようか」
眠そうにしているフィルと家に戻り、二人はベッドに飛び込んで再び目を閉じた。




