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可愛い子はいた!?



 リタはフィルのことを、帰らずの森で迷子になっていた魔族の子と説明した。自分でも無理のある話だと思ったが、ニーナは深く頷いてリタの話を聞いていた。


「あれは、魔法ってことなの?」


 リタの説明を聞いたニーナは、それだけ言って口をつぐんだ。未だクレアと話しているフィルをジッと見つめている。


「……じゃあねー

ねえ、クレアが本置いといてくれるってー」


 フィルはリタに向かってそう言って笑い、残った昼食に手をつけ始めた。

 しばらくして自分に注がれている視線に気づいたフィルは首を傾げる。


「どうしたの?」


 ニーナは椅子から立ち上がり、スタスタとフィルの隣に移動する。フィルは不審げな顔出その行動を見た。


 突然フィルの頭を抱き、再びわしゃわしゃと頭を撫で回す。


「魔族にはこんなに可愛い子がいるのね!」

「わ、なにー」

「あ、ごめんね」


 ニーナは満面の笑みでフィルの乱れた髪を手櫛で整える。今度は乱さない様に愛おしげに頰ずりをし始めた。


「ママたちね、次の行き先を魔族の国にしようと思ってたの。まあそれで喧嘩になったんだけど」

「どういうこと?」


 そう尋ねたリタも立ち上がり、フィルから母親を引き剥がす。不服そうな顔をして自分の椅子に戻った。


「私たち人間は魔族のことを知らなすぎるもの。でもパパは、あんなところは危険だって言うのよ? 行ったこともないのに」


 ニーナは呆れた顔でため息をつく。確かに、リタもクレアやサクに会うまでは、漠然と危険な種族かもしれないと思っていた。


「うーん、まあ確かに私も知らなかったし……」

「あっちにも王様がいると思うの。きちんと話してみたいわ」

「魔王様はいい人だからね。話せばお父さんもわかると思うよ」


 返事を聞いたニーナは、今度はリタを見つめる。言葉を選んでいるようで、なかなか口を開かない。


「な、何?」

「リタ……あなたもしかして魔族の国に行ったことがあるの?」

「え、うん、あるけど……」


 再び立ち上がり、机を叩く。音に驚いて肩をすくめたリタに、ニーナは言葉を続ける。


「可愛い子はいた!?」

「え、っと、いたんじゃないかな」

「絶対パパを説得して行くわ!」


 リタが曖昧に返事をすると、拳を高く上げてそう宣言した。目は、大好きなものを目の前にした子供の様に輝いている。


「お母さん、座ってご飯食べて」

「パパが嫌だって言っても、私一人でも行くわ!」

「わかったから」


 鼻息の荒い母親を落ち着かせて、食事に戻らせる。フィルはニーナのことなど全く気にせず、すでに食事を終えてソファへ移動していた。






 昼食を終え、リタ親娘はソファに座っていた。フィルはリタの膝に頭を乗せ、ニーナの膝に脚を乗せている。

 母親が脚ですら愛おしげに撫でているのを見て、リタは冷たい目をした。


「そういえば、魔族って本当に魔法を使うのね。フィルちゃん、他には何ができるの?」

「ほかー?」


 フィルは少し体を起こして首を傾げ、少し考える。


「手から火を出せたり」

「えー、そんなのできないよー」

「水を凍らせたり」


 フィルはふるふると首を横に振って、再び頭を下ろした。


「お母さん、フィルにはちょっと……」


 初めて魔力を使ったのだってこの前なんだから——と言いかけたが、ニーナはにっこり笑った。


「フィルちゃんは凄い魔法なんて使えなくても可愛いもんねえ」


 そう言って、わしゃわしゃとフィルのお腹を撫でる。フィルは足をバタバタさせて子供の様に笑った。


 そのあとリタが夕方の水撒きを終え、夕食を作り、声をかけるまで、二人は長い間楽しそうにじゃれ合っていた。


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