通信魔法?
「……なに、してるの?」
「君、全然起きないね……」
広いベッドに寝るフィルに馬乗りになっていたクレアは、目を覚ました彼女を見て大きくため息をついた。
太陽は高く登っているし、クレアはすでに朝食を終え昼食すら食べたいと思うような時間だ。
「おはよう」
「……おはよー」
ボヤッとしたした声で返事をして上半身を起こし、跨っているクレアに抱きつく。
「……リタは?」
「寝ぼけてるのか? 君一人で来たんだろ?」
「……んー」
キョロキョロと部屋の中を見渡しリタがいないことを確認したフィルは、そのまま目を閉じて後ろに倒れる。
まだ寝るのか、とクレアは驚いた顔を見せて再び肩を掴んでゆする。
「おい、寝るな! もうそろそろサクが来るよ」
「サク……」
クレアが腕を引いて無理矢理起こすと、まだ眠そうに目をこする。
しかし、クレアが昼食にしよう、と言った途端目を輝かせてべッドから飛び降りた。
「おー、フィル!」
昼食でおなかを膨らませた後、フィルはクレアに連れられて庭に出た。
「サクー! 帰りたいから魔法陣描いてー」
サクを見つけたフィルは、駆け寄って抱きつく。今日はイアンは一緒じゃないようだ。
ぶつかるように抱きついたフィルに、大量の本を抱えたサクはよろつく。
「危なっ。って、魔法陣を教わりに来たんじゃなかったっけ?」
「そうだけどー……」
サクを上目遣いで見つめて、頬を膨らませる。
そんな二人の姿を見たクレアは、ヒラヒラと手を振り城の中に戻っていく。
「じゃあボクは中にいるからね、用があったら呼んでね」
「えーっと、リタと一緒に使える魔法陣だな」
「簡単なやつねー」
「簡単なのはないかな」
「え、やだー」
庭の芝生に座ったサクは、分厚い本を広げてフィルに見せる。表紙にも魔法陣のような複雑な模様が描かれており、とても高そうだ。
この分厚い本のほとんどが移転用の魔法陣のようだ。
どの魔法陣も複雑で、フィルは眉間にしわを寄せたまま無言で首を横に振り続けた。
「じゃあこれはどうだ? 魔法陣じゃないけど……」
諦めたサクは、別の本を取り出す。
先ほどの本よりは薄く、高級感もない。
「通信魔法?」
「昨日魔王様と話したんだけど、フィルはあの場にいなかったのか?」
「見た! 水晶に手乗せてたやつ!」
フィルはポンと手を打つ。
「ああ、それだ。それを使えばこっちと好きな時に話ができるぞ」
「話すだけ?」
「来たいと言ってくれれば私が魔法陣を描くこともできるだろ?」
そう言ってサクは優しく微笑む。
思いもよらない親切な提案に、フィルは驚きの声を上げた。
「それって簡単?」
それでもフィルが一番気になるのは、その魔法が簡単か、面倒くさくないか、なのだ。
「まあ魔法陣よりは簡単、かな」
「じゃあそれでー」
ニカッと笑ったサクは、フィルの頭に手を置いた。フィルの銀髪がさらさらとゆれる。
「魔王様は水晶を使っていたのか、でも媒体はなんでもいいんだ」
ちなみに私はこれだ、と胸元のペンダントを揺らす。
「わたしなにも持ってない……あ、ちょっと待ってて!」
そう言うとフィルはパタパタと城の中に戻っていく。
数分後、フィルは手に本を持って戻ってきた。
「サクでもわかるやつ! これでもいいのー?」
両手で本をかかげ、キラキラとした目でサクを見る。サクにもらった魔法陣の本だ。
「サル、な! 専門の店に行けばもっとカッコいいのがあるぞ?」
「えー、めんどくさいからこれでいいよー」
サクの隣に座り、本を手渡す。
サクは不服そうだ。なんでも媒体になるとはいえ、もう少しカッコいいものが良いのではないか、と思っていた。
少し考えたあと、諦めたように頷く。
「……まあ、フィルがいいならそれでいいが」
「で、どうやるの?」
簡単なんでしょ?と首を傾げたフィルに、サクは苦笑いをした。




