一人で来たの
「……いつ帰ってくるのかなあ」
フィルが出かけてから、丸一日が経った。
帰って来たフィルがその場で寝てしまっているかもしれない、と自分に言い訳をして一日に何度も玄関の扉を開けた。
◇◇◇◇◇
「つ、着いたー?」
一方、フィルは無事に魔族の国に到着していた。
フィルが目を開けたところは、クレアの城の庭だった。スパルタの特訓を受けた庭だ。
「う、どうしよー」
フィルはキョロキョロと辺りを見回し、とりあえず城の中に入ってみることにした。
広い城の中、この間はリタにくっついて移動していたフィルは完全に迷子になってしまった。
「ひっ、もう帰りたいよう……」
同じような部屋の扉で混乱してきたフィルは、長い廊下の中でしゃがみこんだ。
目にはじんわり涙が滲んできている。
しばらくそのまま座っていると、長い廊下の向こうからパタパタと足音が近づいてきた。
「フィル!? 一人でどうしたんだ?」
驚いて目を丸くしたクレアが、フィルの肩を叩く。
振り返るとクレアがいることに安心したフィルは、ダラダラと涙を流した。
「ク、クレアー」
「泣くな泣くな、リタはどうした?」
「ひっ、一人で来たのー」
そう言って座ったまま腰にギュッと抱きついたフィルの頭を、クレアはよしよしと撫でる。
「サクにもらった本には一人用の魔法陣しか載ってなかったの……」
フィルがそう言うと、クレアは首を傾げた。
「でも、魔法陣を二つ描けば二人で来れたんじゃか?」
いまだその手はフィルの頭を撫で続けている。
「でもリタには魔力ないよ?」
「魔力は描くときに消費するのであって、使うだけなら必要ないぞ?」
「ええー、そんなことできるのー?」
フィルはがっくりと肩を落とし、再び涙をためる。
「で、何をしに来たんだ?」
クレアは指先でフィルの涙をすくう。
小さな子供に慰められている図というのはなんとも可笑しい。
「うん、一人用じゃ困るからもうちょっと難しいやつをサクに教えてもらおうとー。
いるー?」
「サクはここに住んでるわけじゃないからなあ、呼んでみるか?」
「うん、おねがーい」
任せろ!と胸を叩いたクレアは、フィルの腕を引っ張り立ち上がらせる。
そのままフィルの手を引き、自分の部屋へと案内した。
「サク、今どこに?
……ふむ、ああ、フィルがきてるんだよ。
……いんや、一人で。魔法陣のことを聞きたいんだと」
部屋に着いたクレアは、机に乗った丸い水晶に手を乗せて話しかける。誰かと話しているようだが、フィルには独り言にしか見えない。
不思議な光景に、フィルは首を傾げた。
「……あー、そうかー、よろしくなー」
じゃあな、と最後に言うと水晶玉から手を離し、フィルを見てにっこりと微笑んだ。
「なに今のー」
「魔法だ!」
クレアは鼻高々に、胸を張る。
フィルは目を輝かせて、クレアの頭を撫でる。
「あ、サク来るってー?」
角を撫でていたフィルは思い出したように手を止め、そう尋ねた。
「今日は忙しいから、明日なら来れるらしい。
一度帰って出直した方がいいんじゃないか?」
「えー、帰るのー?」
うーん、とフィルは頭を悩ませる。
早く帰りたい、でももう一度あの魔法陣を描くのも面倒くさい。どっちを取るか……
フィルは悩み続ける。
「泊まっていーいー?」
フィルが出した結果はこちらだった。
「ボクは構わないけど……フィルはいいのか?」
「もう一回描くくらいなら泊まる……」
クレアはフィルの手を取り、跳ねて喜んだ。つられてフィルもぴょんぴょんと跳ねる。
二人の長い金と銀の髪が絡み合う。
楽しくなった二人はベッドにダイブし、顔を見合わせて笑った。
その後フィルとクレアは、豪華な食事をし、たくさん遊び、大きなベッドでぐっすりと眠った。
リタが心配しているということなど、フィルは全く考えなかった。




