声が頭に響く
「サク教えるのへたー」
「私が悪いのか?」
媒体を“サルでもわかる魔法陣”に決めワクワクしていたフィルは、恨めしそうにサクを見た。そのまま諦めたように大の字で芝生に倒れ込む。
サクは大きくため息をついてフィルを引っ張り上げて座らせた。
甲斐甲斐しく、背中に付いた草を払ってやる。
「フィル、魔法は感覚的な問題だ。
確かに教本はあるけど、コツをつかまないと難しいかもしれないな」
サクは薄い魔法の本をパラパラとめくる。
魔法陣の本とは違い、ほとんどのページにぎっしりと文字が描かれている。
「うーん、じゃあ今誰か話したい人はいないか?」
サクは本を閉じ、そう問いかける。
フィルは、うーん、と少し考えたのち、両手を高く上げて明るい声を出す。
「……リタ!」
「じゃあもっとリタと話したいって気持ちを高めてみるんだ」
「高める……?」
「そうそう、やってみてくれ」
再び首を傾げたフィルだったが、サクに促されてとりあえず目を閉じる。
「……リタ……リタと話したい……リタ……」
目を閉じたフィルは、ぶつぶつとリタの名前を呼ぶ。
「……リタ……うぅ、リタ元気かなぁ……」
「げ、どうして泣いてるんだ!?」
フィルの目にじんわりとたまった涙は、ポロポロと流れ出す。
突然の出来事にサクはオロオロとした後、フィルの目をこする。
「リタにっ、会いたいよー……
サクー、わたし早く帰りたいよー……」
「えっと、まだ一日ちょっとだよな?」
なだめるようにフィルの背中を撫でる。
フィルは大きく息を吸って、ぐずぐずと鼻をすすった。
「落ち着いたか?」
「……うん、だいじょーぶ」
赤くなった目をゴシゴシと擦り、小さく頷く。
とりあえずフィルが泣き止んだことで、サクはホッと胸を撫で下ろした。
「さ、じゃあもう一度やってみようか!」
サクはもう一度一から説明する。
フィルにもわかりやすいように先程よりもゆっくりと、丁寧に。
「で、できた?」
フィルの手元の本は少しのあいだ淡い光を放って、消えた。
「おお、できたじゃないか!」
サクは満面の笑みでフィルの頭をくしゃくしゃと撫でる。フィルも成功が嬉しく、くすぐったそうに笑う。
「よし、じゃあそれで魔王様と話してみよう」
「どうやるの?」
「本に触れて、相手を思い浮かべるだけでいいんだ」
フィルが本に触れると、再び少しだけ光を放った。
「クレアー、フィルだよー!
……うわっ、気持ち悪い」
クレアの声はサクには聞こえない。
会話を始めたフィルは嫌そうに眉をひそめた。直接頭の中に響く声が気持ち悪いらしい。
「……うん、クレアの声が頭に響く……
クレア、出てきてー」
ふぅ、と息をついて数分後、城の中からクレアが庭に出てきた。
昼寝をしていたのか、眠そうな目をしきりにこすっている。
「あれ、魔法陣はどうしたんだい?」
「難しそうだったからやめたのー」
クレアは諦めたようにため息をつく。わかってきているのだ、フィルの面倒くさがりを。
「ここに来た目的を達成してないんじゃないか?」
「来たいって言ったら、サクが魔法陣描いてくれるってー」
フィルがあっけらかんとそう口にすると、クレアは驚いていサクの方を見た。
「サク、君は忙しい身だろう? いいのか?」
「イアンもいるので問題ありません、魔王様」
「サクがいいなら、ボクは構わないんだけどね」
フッと笑顔を見せ、クレアはフィルの頭を軽く叩く。
「サク、忙しいの?」
「サクはな、子どもたちに魔法を教えたりしてくれてるんだ! とっても助かってるよ」
クレアは薄い胸を張り、自分のことのようにサクの功績を語る。
"博士"と呼ばれるサクは、研究者であり子供たちの魔法の先生だ。子供たちを集め、様々なレベルの魔法を教える。
時には大人相手にやることもあるらしい。
恥ずかしそうにクレアの話を聞いていたサクは、区切りの良いところでコホンと咳払いをする。
「それじゃあそろそろ帰るか、フィル」
「はーい、帰りまーす!」




