角が痛いです
「ふぅ、美味しかったな!」
「おなかいっぱーい!」
クレアとフィルは満足そうにおなかを撫でる。
テーブルの上にあったたくさんの料理は、ほとんど二人で食べきってしまった。
「フィルはよく食べるな」
「食べるって楽しいからねー」
そうかそうか、とクレアはなぜか満足げに頷いて、思い出したように手をポンと打つ。
「ああ、そうだ。
サクたちに帰宅用の魔法陣を頼んでこないといけないんじゃないか?」
「じゃあ私が行ってきます」
そう言ってリタは席を立つ。
「サクとイアンには仮眠室を与えているからな。
えっと、さっき君たちが寝ていた部屋の三つ向こうだ」
リタは廊下に出て、言われた通りに部屋を探す。
「さっきの部屋はここだから
……えっと、いち、に、さん……この部屋かな?」
三つ隣の部屋の扉に耳を当てて、中の音を盗み聞く。
何も聞こえなかったのでリタは諦めて扉を叩いた。
コンコンコン
「……失礼します」
「なんの御用ですか?」
暗い部屋の中、イアンは小さな明かりだけで何やら機械をいじっている。
ドアを開けたリタのことをチラリと一瞥し、すぐに手元に視線を戻した。
「あの、サクさんは……?」
「博士はそちらでお休み中です」
イアンは部屋の奥を指さす。
暗くてリタにはよく見えないが、広い部屋の奥にはベッドがあるらしい。
「えっと、帰るために魔法陣を頼みたいんですが」
「わかりました、明日お目覚めになられたら伝えておきます」
「あ、ありがとうございます」
リタの返事を最後に、部屋はしんとした。
イアンは「まだ何か?」と少し嫌そうな顔をする。
「すみません、失礼しました……」
部屋を出て、リタはふぅとため息をつく。
イアンは少し苦手かもしれない、と思った。
リタがダイニングに戻ると、テーブルの上の皿は綺麗になくなっていた。
フィルは空いた机でぐだっとダラけている。
「サクさんはもうお休みになられていました」
「そうか! じゃあ今日は泊まっていけ! な!」
クレアは楽しげに両手でテーブルをたたく。
こうしているととても子供っぽい。
「帰れないのー?」
テーブルを叩く音に、フィルは迷惑そうに顔を上げる。
「サクさんが寝てたからね」
「お家のベッドで寝たいー」
フィルはそう言ってテーブルに顎をつけ、頬を膨らませる。
「フィル、今日はボクと一緒に寝よう!」
「えー、まあ帰れないなら仕方ないけどー」
その返事を聞くと、クレアは椅子から飛び上がった。勢いそのままに、フィルの元へ駆け寄る。
「やった! もちろんリタもだぞ!」
クレアはそう言って子供らしく満面の笑みを浮かべる。
そのままリタの腰に抱きつき、グリグリと頭を擦りつけた。角が刺さる。
「いたっ、クレアさん角が痛いです」
「わ、すまん、嬉しくてな!」
当たらないように角を掴んだリタに気付かず、クレアはリタから離れた。
すると当然、
「取れた……」
「か、返せよー!」
クレアの角は再び一本になってしまう。
反射的に手を高く上げたリタに飛びつく。
「わ、すみません」
「角はこのワンセットしかないんだからな! 壊れたらどうするんだよ」
クレアはムッとして、リタから受け取った角を愛おしげに撫でる。本当に大切なようだ。
角があってもなくても威厳はあまり変わらないような、と思わず言いそうになってリタは口をつぐむ。
「じゃあ気を取り直して……」
二本角に戻ったクレアはコホンと咳払いをする。
「今夜はお泊まり会だ!!」




