わたしの家はリタのところだけだから
「フィル、食べながらでいいんだけど、話を聞いてくれるか?」
「ん?」
なぜか両手に肉の刺さったフォークを持ち、口の中もいっぱいのフィルはクレアの問いかけに首を傾げる。
クレアは呆れた顔でフィルを見て、口の中が空になるのを待った。
「飲み込んだか?
よし、率直に聞こう。……君はどこの誰だい? どこで産まれてどこで育った?」
君が寝ている間に調べたけどこの国に君のデータはなかったんだ、そう言ってクレアは不思議そうな顔をする。
「産まれたのは……うーん、森?」
「森?」
「うん! リタが森に来てー、ペタっとやったらピカーって!」
「ペタ、ピカ?」
クレアはフィルの言葉に首を傾げる。
隣で聞いていたリタは苦笑いをし、助け舟を出した。
「あの、私が森に行くと大きな卵がありまして……」
「……よくわからない」
フィルとの出会いを一通り話したリタに、クレアは眉間にしわを寄せてそう呟いた。
信じてもらえていない、リタはクレアのその表情からそう思った。
一方、当事者であるフィルは話も聞かずに、料理に手をつけている。
「うーん、じゃあ、フィル。
リタと出会う前のことは覚えてるかい?」
「覚えてるよー」
「話してくれるか?」
「えー……」
フィルは面倒くさそうな顔をしてリタを見た。代わりに説明しろ、ということなのだろうが、リタは首を横に振る。
ムッとした顔で両手のフォークを置き、フィルは話し出す。
500年程前に小さな研究所で誕生したこと。
人間たちを傷つけるために生まれた生物兵器だということ。
フィルが説明したのは“覚えている”というより、元々埋め込まれている記憶のようなものだろう。
「……より一層わからん」
「わたしもー!」
フィルは楽しそうに両手を上げた。お手上げ、ということだろうか。
当の本人すらもよくわかっていない出生の話に、クレアは呆れ顔だった。
「うーん、兵器として命を受けたようだけど、戦う意思はないんだよね?」
「疲れるし、めんどくさいでしょー?」
「フィルは面倒くさがりなんだなー」
ははは、と笑ったクレアは、ナイフとフォークで丁寧に目の前の肉を切って口に運ぶ。
「あ、あの、クレアさん。フィルの話を信じてもらえるんですか?」
「え、嘘なのか!?」
おずおずと聞いたリタに、クレアは驚きの声をあげた。
さっきまで丁寧に扱っていた食器も大きな音を立てる。
「あ、いえ、嘘ではない……と思います。
でも、すぐに信じられる話でもないですよね……」
「うーん、確かにそうかもねえ
……でもフィルが嘘をついているようにも見えないんだよ」
クレアはうーん、と唸って腕を組み、フィルをじっと見る。
フィルは自分の話をされているというのに、我関せず、と食事を再開している。
リタはなんの返事もできず、目の前の空になった皿を見つめた。
「まあいいんだよ! 魔力の発信源がフィルだってわかっただけでさ」
それだけ言うと、クレアは子供らしくニカッと笑い再び食事を始める。
「クレアさんは、本当に魔族が攻め込んでいないか気になっていただけなんですか?」
「ん? そうだけど」
クレアは当たり前かのように、そう返事をする。
「フィルをこっちに住まわせようとは?」
このままフィルをここに住まわせようと思っているのではないだろうか、リタはそれをずっと不安に思っていた。
「うーん、魔力を持っている以上、フィルは魔族に分類してもいいと思う。
望むならここで暮らすことも歓迎するぞ!」
「どうして? わたしの家はリタのところだけだからねー、帰るよー!」
クレアの提案に、フィルは料理から目をそらさずに即答する。
さも帰ることが当たり前かのように、それ以外の選択肢は考えたことがないというように。
「君ならそう言うと思っていたよ」
クレアも残念がるでもなく、当たり前かのようにそう返事をした。
心配していたのはリタだけのようだ。
リタは二人の様子に、ホッと胸をなでおろした。
「フィルー、美味しいか?」
「おいしー!」
「それはよかった! リタも食べるんだよ!」
「は、はい」
それ以降、食事が終わるまでクレアはフィルの話をしなかった。




