着脱可能なんですね
リタはクレアの声で目が覚めた。
「あ、リタが先に起きたのか。
それより、フィルが全く起きないんだよ」
クレアはフィルにまたがって体をゆすっているが、フィルは寝息を立てている。
リタの目が覚めたのを確認したクレアは、フィルを起こすのを諦めたようだ。
「リタ、フィルを起こしてからダイニングに来てくれるかい?
この部屋を出て右に進んだら、すぐにわかる大きな部屋だからなー」
先に行ってるぞー、とクレアはベッドから飛び降りてヒラヒラと手を振った。
リタは目をこすり、フィルの体をゆする。
「起きて!」
「……」
「フィル、起きて!」
「ん……」
「おはよう」
「……おはよー」
目が覚めたフィルは体を起こし、寝ぼけた目で部屋の中を見渡す。
「……どこ、ここ」
目をこすり大きなあくびをするフィルは、城に来たことすら記憶にないのだろうか。
「魔王様のお城だよ。フィルがあまりにも眠そうだからベッドを貸してもらったんだ」
本当に覚えてないの?とリタが尋ねるとフィルは無言で頷いた。
「わあ、すごい!」
言われた通りに向かった広い部屋には大きなテーブルが、その上には数々の豪華な料理が並んでいた。
フィルは目を輝かせてテーブルに駆け寄り、料理をのぞき込む。
「フィルとリタのために用意させたんだ、沢山食べるんだよ!」
そう言って胸を張るクレアに、フィルは笑顔で近づいていく。
「小さいのに偉いねー」
そう言ってフィルはクレアの頭をなでる。
ここに来たことすら覚えていないのだから、クレアのことももちろん覚えていないだろう。先に説明しておけばよかった、とリタは後悔した。
「な、小さいとはなんだ! ボクはこの国の王様だぞ!」
「えー、でもちっちゃいよ?」
ムッとして背伸びをしたクレアの頭をフィルはなで続ける。
見慣れない角にも興味津々の様子だ。
「ねえ、これって角? カッコいいねー」
「わ、角はやめろ! 触るなー!」
リタもクレアの角はなんだか不自然には見えたが、触れることはしなかった。
なおもクレアの頭を撫でまわすフィル。
王様に対してさすがにやりすぎだ、とリタが止めようとした瞬間だった。
「わ、とれたー!」
「返せー!」
頭から生えていたはずの黒い角を掲げるフィル。
クレアの頭には一本しか残っていない。
突然抜けてしまった角に、リタは驚いた。
クレアは必死に取り返そうとフィルの周りで跳ねるが、いかんせん身長が低く全く届きそうにない。
「フィル、返せ!」
「もうちょっとだけー」
「リタもなんとか言ってくれよー!」
返してくれそうにないフィルを諦め、リタに助けを求める。
「え、っと、角って着脱可能なんですね?」
「そこじゃなーーい!」
期待していた答えが返ってこず、クレアは顔を赤くして頬を膨らませた。
「ね、この角ちょうだーい!」
「ダメだって! それはボクの威厳を保つためには必要な……」
そこまで言って、クレアは両手で口を押える。
「威厳?」
リタはそう聞き直し、フィルの頭を軽く叩き角を取り上げる。
「ボクの見た目がこんなにお子ちゃまだから……
なんていうか、国民になめられないようにしてるんだ」
リタが取り返した角を受け取り、元の位置に戻したクレアはしょんぼりしてそう答えた。
地雷を踏んでしまったか、とリタも、さすがのフィルでさえも次の言葉に迷った。
しかし、クレアの顔はすぐに明るくなる。
「まあ、角の生えた魔族なんていないから、国民にはつけ角だってバレてるんだけどな!」
そう言って明るく笑い、両方の角を取って見せる。
「さ、そんなことより、料理が冷めないうちに食べようじゃないか!」
茫然としているリタとフィルをよそに、クレアは再び角を付け直して席に着く。
「何をぼーっとしてるんだい? 君たちも座ってよ」
「わーい、座るー!」
フィルがクレアの向かいに座ったので、リタはその隣に座った。
サクに連れて行ってもらったレストランでかなりの量を食べたにも関わらず、たくさんの料理を目の前にしてフィルはおなかを鳴らしている。
「さあ、二人とも、思う存分食べてくれたまえ!」
「いっただっきまーす!」
勢いよく手を合わせたフィルは、そのままの勢いでナイフとフォークを手に取った。




