ボクがこの国の王様だよ!
「さあ、着いたぞ」
サクが大きな建物の前に立ち止まった。
ここが魔王の城なのだろう。
「フィル、起きろ」
「ん……どこ……」
サクは、おぶっていたフィルを優しく下ろし頭を撫でる。
フィルは少しふらついて目をこすった。
「じゃあ入ろうか」
魔王様、どんな人なのだろう。怒鳴りつけられたりしないだろうか。リタは不安でいっぱいだった。
四人はサクを先頭に、大きな門をくぐった。
「サク、遅かったじゃないか」
前を歩くサクとイアンはその声に深く頭を下げる。
「ただいま帰りました、魔王様」
部屋に入ると、豪華な赤い絨毯、金ぴかの椅子。そこに座るのが魔王様と呼ばれている人物だろう。
「ま、魔王様って……?」
リタの驚いた声に首をかしげたのは、頭に二本の角が生えた小さな少女。黒い角が金髪によく映えるが、可愛らしい少女には少々不釣り合いに見える。
椅子に座ると地面に付かず、足をプラプラとさせている。
「えっと、この子が?」
「子? ボクがこの国の王様だよ!」
プンプンと頬を膨らませて怒る魔王。
どこからどう見ても子供だ。
「あ、えっと、ごめんなさい。
想像していた方とあまりに違ったので」
慌てて謝ったリタに、魔王はますます唇を尖らせる。
「あの、魔王様。魔力の発信源はこの少女でした」
サクがフィルを指さすと、魔王は頬に溜めた空気を吐き出して真面目な顔をした。
「こちらが彼女の魔力のデータになります」
イアンは家の前でフィルに向けていた四角い機械を魔王に見せ、何やら説明を始めた。
二人は真剣な顔で機械とフィルを交互に見る。
険しい顔だった魔王は、話を聞くにつれて明るい顔になった。
少しの間コソコソと話をした後、魔王は深く頷いた。
「ふぅむ、ありがとう、イアン。
とりあえず話を聞きたい。サクとイアンは出て行ってくれるかい」
サクとイアンは魔王に頭を下げ、言われた通りに部屋を出た。
サクは去り際にリタの頭をポンと叩き、優しく微笑んだ。
「ふぅ……
改めまして、ようこそわが国へ! 遠くからわざわざありがとう!」
そう言って魔王は椅子からぴょんと飛び降りる。
金色の長い髪が腰まであるのが分かった。
「ボクがこの国の王、クレアスターミだよ。
クレアと呼んでくれ!」
「私はリタです。えっと、この子はフィルです」
フィルは未だにうつらうつらし、リタに寄りかかっている。
「さっそく伺いたいんだけど……君は何者かな?」
クレアは二人を見上げるように立ち、大きなあくびをしているフィルを指さした。
「わたし……? フィル……」
「フィル、たぶんそういうことじゃなくて……」
「なに……? ねむい……」
フィルはリタの肩に顎を置き、体重を預けて目をつぶる。
「ちょっと、フィル!
すみません。お腹がいっぱいになって眠いようで……」
いくら子供に見えるからって一国の王を目の前にその態度はどうなんだ、とリタは慌てた。
「いやいや、まあいい。話ができないと意味がないからね。
部屋を用意するからそこで少し寝るといいよ!」
通された広い部屋の大きなベッドで、フィルは倒れるように眠りについた。
「相当眠たかったようだね」
「すみません、お話したかったですよね」
「いや、とりあえず魔族の誰かがあっちに攻め込んだわけじゃないことがわかって、ホッとしてるよ」
サクが言っていた『魔王様が心配している』というのはどうやら本当だったらしい。
クレアはベッドの縁に腰掛け、フィルを覗き込む。寝顔を確認した後、優しく微笑んだ。
「リタ、君はどうやら普通の人間らしいね。
こんな魔力の強い子が身近にいて怖くないのかい? この子は君をいつでも傷つけられるんだよ?」
フィルの頭をなで始めたクレアは、リタの方を見ずに真面目な口調でそう尋ねた。
小さな子供になでられている図がどうも可笑しい。
「えっと、フィルに魔力があると知ったのもついさっきなので……」
そう言うと、クレアは驚いた顔をしてリタを見た。
一瞬固まった後、お腹を抱えて笑いだした。
「あははははっ、そうなのかい!」
クレアの目には、笑いすぎて涙がにじんでいる。
なにがそんなに面白いのか、とリタは思ったがあまりに笑い続けるクレアに尋ねることもできなかった。
クレアはひとしきり笑った後、涙を拭ってリタを見る。
「ちょっと安心したよ。
よし! それじゃあ、ディナーの用意を頼んでくるよ。
また起こしに来るからリタも少し寝たらどうだい?」
話はその時に聞かせてもらうからね、とクレアは手を振り部屋を出た。
フィルぐっすりと眠っている。
リタはフィルの横に寝転び、天井を見上げた。
クレアは本当に話を聞いたら帰してくれるだろうか、とリタは少し不安になった。
魔力を持つフィルは魔族と一緒に住むべきだ、なんて言われるかもしれない。
リタは頭をグルグルと回る不安を吹き飛ばすべく、フィルをギュッと抱きしめて目を閉じた。




