68話 桜子ですけど、ウッド外相って誰ですか?
1940年5月11日 東京 秩父宮邸
【ドイツ軍がオランダ、ベルギー、ルクセンブルクに侵攻! フランス侵攻に向けての準備作戦か? まやかし戦争は終結!】
あーあ、ついに本格的な戦争が始まってしまいましたか。
そのままファニーウォーを続けていれば、みんな幸せだったのに……
それと、やはりといいますか結局オランダの中立は無視されてしまいましたか。
「オランダは道路にあらず! 道路はベルギーである!」
こうでも言っておけば、ドイツもオランダを放置してくれたかも知れなかったのにね?
まあそれも、もう既に詮無きことでしたか。
冷たいかも知れないけど、日本としては東インドとの貿易が続くのであれば、オランダ本国がドイツに占領されたとしても別に関係ないといえば、関係ないのですけれども。
【チェンバレン英国首相が対独融和政策の失敗の責任を取る形で辞任! 後任はウッド外相!】
は? ウッド外相って……誰?
ああ、外務大臣なのだから、ハリファックス卿のことでしたか。
一瞬、誰だか分からなかったよ。
といいますか、ガリポリの肉屋さんことチャーチルおじさんはドコに行った?
なんで、チャーチルが首相に就任しないで、ハリファックスが首相に就任しているんだ?
どうしてこうなった?
これはアレかな? イタリアがアルバニアに侵攻しないで、融和的な外交をしているのも影響していそうな気がしますね。
イタリアはドイツにもすり寄らないで一定の距離を保っている感じがしますし、地中海のイギリス権益が脅かされてないから、まだ戦争屋のチャーチルの出番ではないということなのかも知れません。
しかしイタリアは、ドイツ軍によってパリが陥落寸前にでもなれば、スケベ心がムクムクと出てきてしまって、火事場泥棒よろしくフランスに攻め込まないとも限らないのがなんともはや。
そして、故地であるニース周辺を奪還しようとして、フランス軍に撃退されるまでがワンセット。お約束というヤツであります。
イタリアのジェンティルウォモさんには、ドイツに付けば最終的には負け組になると、今一度、念を押しておいたほうが良さそうですね。
イタリアがフランスに攻め込まなかったら、それだけで十分だと思います。
枢軸と連合を両天秤に計って、絶妙のタイミングでイギリスに高く売りつけてもいいけどさ。
といいますか、イタリアがイギリスの敵にならなければ、フランスは別にどうでもいいのだけどね。いかん、本音が漏れた。
フランスに攻め込んだら自動的にイギリスも敵に回すことになるので、イタリアがフランスに攻め込むのを阻止しなければなりません。
イタリアが局外中立を保つか連合国入りでもすれば、そのうちリビアに石油があることを、ご褒美に教えてあげても良さそうな気がしますね。
【チャーチル海相がノルウェーを守れなかった責任を取って辞任! ハリファックス新首相と軋轢との噂も?】
え? ドイツとの戦争中なのに海軍大臣を辞任しちゃったの?
ガリポリの肉屋の矜持はドコに行ったの?
戦争屋が海軍大臣を辞めて、どうして戦争ができようか!
戦争屋のチャーチルが自ら戦争を放棄するだなんて、そんなの私は許さないよ!
チャーチル、もっと熱くなれよ!
もっと若人の血を啜れよ!
もっと世界中に災厄を拡大させる役目が、チャーチルに与えられた役割だったはずなのに……
前世の史実と違って、ドコで歯車が狂ったのでしょうか?
もしかして、私のせいだったりするのかな?
日本 → 欧米協調路線に転換
イタリア → 融和協調路線に転換?
イギリス → 穏健派のハリファックス首相登場
まさか、日本が欧米協調路線に方針転換しただけで、こんなにも違いが出てくるだなんて思いもしなかったよ。
北京ニューヨークのバタフライ効果ならぬ、東京で蝶が舞ったらローマとロンドンで嵐が起こったということでしたか。
イタリアといいイギリスといい、世界は不思議に満ち溢れていると思いました。小並感。
こうなってくると、パリが陥落してフランスが降伏すれば、ヒトラーが呼び掛けた対英講和の打診にイギリスが応じる可能性も、頭の隅に入れておかなければいけないということなのか……
hoiでもAIだと、ハリファックスが首相の座に就いている場合では、フランス降伏後にドイツと講和を結ぶ確率が数十パーセントあった気がしましたので、ハリファックス首相だったら現実でも講和の可能性はあり得るでしょうしね。
肉屋さんだったら、対独講和の確率はゼロパーセントで、ドイツの無条件降伏まで戦争継続なんですよね。
さすがは戦争屋と揶揄されるだけのことはあると思いました。
そこに痺れる、あこがれる!
ゲーム脳? いいえ、可能性の問題なのです!
それよりも、日本が早まって対独宣戦布告をしないように、お父様を通して伝えておかなければいけません。
日本が対独宣戦布告したはいいけど、その直後にでもイギリスにドイツと講和でもされてしまったら、何のために宣戦布告したのか分からなくなってしまいますもんね。
そんな架空戦記を前世で読んだ記憶があるのですよ。
舞台に上がったはいいけど梯子を外されてしまっただなんて、ピエロ以外の何者でもありません。
世界中から、プークスクスと指を差されて笑いものにされるのがオチです。
二階に上がるのではなくて、世界大戦の舞台に上がるのだから、奈落の底に落とされる。
これが正解なのかも知れないけど、些細なことでしたか。
英国紳士ならば日本の事情などお構いなしに、自国の利益のためにソレをやる可能性があるから怖いのですよね。
「国家に真の友人はいない。あるのは永遠の国益のみ」
とは、まったくもってよく言ったものだと思います。
目先の利益や義理と人情に流されないで、冷徹にマキャベリストに徹することができる政治家が、今の日本に居るのかどうか怪しい気がしますね。
新聞を読んだ限りにおいては、ダメそうな気配がプンプンと漂っている感じでしょうか?
殿様やお侍の言うことに唯々諾々と従ってきた日本人には、欧米流の政党政治は百年早かったような気がしないでもない。
視野狭窄で無知蒙昧な平民に権力を持たせた結果が、今のグダグダな日本の政治情勢なのだと思えてきちゃいますよ。
まあ、武士でもダメな人間は数多いましたので、一概に平民上りがダメとは決めつけられないのでしたね。
しかし、明治の元勲、元老たちは、人を育てるということを怠ったように思えますね。
なまじっか元勲たちが優秀だったせいで、自分たちだけで何でも出来てしまった弊害が、ここにきて噴出した格好ともいえるでしょう。
それでもまあ、明治になってから七十年。議会政治が始まってから五十年あまりだから、これでも頑張ってよくやっている方なのかも知れません。
私的には、あまり評価は出来ないですけど。
いかん、歴史を知っていると、どうしても上から目線で物事を捉えてしまうのは、悪い癖だと思います。気を付けねば。
でも、こればっかりはなぁ……
それはそうと、東京オリンピックもまだ完全に中止すると決まったわけではありませんので、まだ日本が戦争をするわけにはいかないのであります。
IOCと日本で調整して、なんとか開催する方向で頑張ってもがいているみたいですしね!
パリが陥落したら、どう転ぶのか分からなくなりそうなのが怖いですけど……




