67話 中島知久平ですけど、またなんかきました……
1940年5月 東京 秩父宮邸
「フフフンフンフン♪」
「藤宮様、ご機嫌ですね」
「まあねー」
「今度は何を描いておられるのですか?」
「じゃじゃーん!」
桜子ちゃん特製、フライングパンケーキであります!
このフライングパンケーキは円盤翼機であります。なおかつ、ジェットエンジンは翼の上に取り付けるような設計になっているのです。
近未来的で先進的な対地襲撃機だと自負できるだけの設計図だと思いますね!
まあ、私が未来の対地攻撃機のイメージをだいたい知っているからこそ、この絵が描けたともいえるのですけれども。
これこそが、知識チートの醍醐味といえるのかも知れません。
け、けして、フライングパンケーキやA-10のパクリでは断じてない!
ないったら、ない!
私の設計図は、桜子ちゃんオリジナルのフライングパンケーキなんだから!
このスケッチどおりの対地襲撃機を開発できれば、地上にいる敵兵にとっては、まさしく死神と呼ばれ恐れられることでしょうね!
「フライングパンケーキですか?」
「そうだよ! 夏子さんもホットケーキに似ていると思わない?」
「この形は確かに丸っぽいですから、パンケーキに似ているかも知れませんね」
「だから、空飛ぶパンケーキなんだよ!」
「ふふ、藤宮様の子供っぽいところが見れて安心しました」
「そうかな?」
でも、史実でのフライングパンケーキの命名者は、立派な大人だと思うのですが?
まあ、自分でも色々とやらかしている自覚はありますので、これからは少し自重する方向へと舵を切りましょうか。
「でも、一つだけよろしいでしょうか?」
「んー、なにかな?」
なんか嫌な予感がしますね。
私も少しはパターンを学習するのですよ。
「このパンケーキって本当に飛ぶのでしょうか?」
「と、飛ぶはずだよ!」
たぶん、おそらく、きっと、めいびー。
でも、円盤翼機って実験機とか試験機みたいなのは飛んでた気もするけど、量産して実用化に成功した機体って聞いたことがありませんでしたね。
フライングパンケーキが本当に飛ぶのかどうか、ちょっと自信がなくなってきちゃったよ。
「本当ですかね~? そのうち、フライング酢昆布とかも出てきそうな予感がしますね」
「……さすがにそれはないと思う」
一反木綿みたいなのが、ふよふよと飛ぶのかな?
でもそれでは、和風ファンタジーの世界になってしまいますよ。
東京 某所
「ふむ、フライングパンケーキとな?」
「ほう? 円盤翼ですか。なかなか斬新なアイデアですね」
「まあ、子供が考えたアイデアだからな」
まだぞろ、幼女の皮を被ったナニかであらせられる藤宮様から、飛行機のスケッチを手渡されたのだが、よもや平べったい飛行機のイメージ図だったとは!
こんな形をしていて、ちゃんと飛ぶのか怪しく思えるのだが……
「子供のアイデアでしたか…… しかし、このスケッチは対地襲撃機としては、致命的な欠陥があるような気がしますね」
「致命的な欠陥?」
「はい。翼面積が大きいというのは、それだけ被弾する面積も大きくなるということです」
「なるほど。それは確かに一理あるな」
地上から対空機銃を撃たれたら、翼面積が大きいと被弾する確率も跳ね上がるということか。
また、敵戦闘機から機銃を撃たれた場合にも同じことが言えるのだったな。
ということはだ、今回の藤宮様のアイデアは残念ながらもボツにした方が良さそうだな。
しかし、なにかが引っ掛かるんだよなぁ……
そう、このスケッチからは、もしかしたらひょっとするとなんとなく、どんでもない代物の匂いが感じ取れてしまうのだ。
「それと、円盤翼機は未知の部分が多すぎて、万が一開発するにしても、かなり難儀しそうですよ」
「そうであろうな。まだ円盤翼は世界でも数える程しか飛んでないだろうからな」
「それも実用化というよりも、実験機止まりですよ」
なるほど…… 我が中島が世界に先駆けて円盤翼機の実用化に成功できる。そのチャンスとも捉えることができるわけか。
日本の航空機のパイオニアから、世界の航空機のパイオニアへと羽ばたける好機とも言えるのだな。
そう考えると、逆に開発したくなってきたぞ。
このスケッチでは、対地攻撃機、襲撃機となっているから、基本的には味方の制空権のある場所で行動するのが前提と考えてもいいのか?
まあ、それも軍人の運用次第なのだがな。
制空権を味方が保持している前提での運用であるのならば、このスケッチの機体も意外と悪くはなさそうな気がしてきたな。
そうであるならば、だ。
「開発するぞ」
「は? いえ、ですが、円盤翼機ですよ?」
「だからこそだ。いつまでも欧米先進国の真似ばかりでもつまらないであろう?」
「それはまあ、おっしゃる通りですけど……」
円盤翼の揚力の大きさは魅力的だ。離着陸の距離が短くて済むということは、臨時に突貫で造った短い野戦飛行場からでも飛び立てるし、被弾したとしても緊急に着陸できるということだ。
また、空母艦載機としても活用できる可能性があるのも魅力的だな。
翼が大きくて被弾面積が増えるのは、薄い鉄板でも張り付けて装甲を施しておけば、ある程度までの被弾には耐えれるであろうしな。
それに元々、対地襲撃機というのは、地上からの対空砲火の反撃があるのが前提なのだから、ある程度の装甲は必須ともいえる。
ジェットエンジンの取り付け位置は微妙だな。翼の後部か機体後部の横、もしくは機体中央の後ろのほうが良さそうな感じもするな。
まあ、これもモックアップを作ってから風洞実験をして、その結果しだいだが。
「世界に先駆けて、中島飛行機が円盤翼機の実用化に成功させるぞ!」
「そこまで申されるのであれば、私に否はございません。予算の方はよろしくお願いします」
「弟に話は付けておくよ」
ふ~、どうやらこのまま上手くいけば四年後ぐらい先の未来では、フライングパンケーキが日本の空を飛んでいるのかも知れんな。
世界の航空機のパイオニアと呼ばれるためにも、円盤翼機の実用化を成功させねばならん。
それに、珍妙な形をした飛行機が実際に飛んでいる姿を、この目で見てみたいしな。
年甲斐もなくワクワクしてきたぞ。




