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47話 桜子ですけど、おしおきのはずが……


 1939年5月下旬 東京 秩父宮邸



【無敵皇軍! 見たかソ連! これが帝国が誇る荒鷲だ!】



 なになに……


【精強なる帝国陸軍航空隊は、ノモンハン上空での航空戦で、自軍十二機でソ連軍機を三十数機を撃墜! 自軍の損失はゼロ機!】


 日本側の損失がゼロ……?

 まっさかー! さすがに、これはちょっと盛り過ぎでしょ?


 あー、でもまあ、九八式の性能ならば、この当時のソ連軍機程度が相手ならば、被撃墜ゼロでも別に不思議ではないのか。この年代では、九八式の性能は隔絶している気もしますしね。

 私の主観でも、P-51のD以降やFw190Dとか以外には、負ける気がしませんしね。この当時のソ連軍機は、I-15とかI-16とかでしたから、鴨撃ちも同然でしたか。


 しかし、この新聞の一面の見出しは少し不味いですね。こんなにも過激に国民を煽ってしまえば、そりゃあ勘違いして、欧米列強何するものぞ! とか、鼻息が荒くなる連中が増えてしまいますので。

 日本人は、白人の、特にアングロ・サクソンと、ユダヤ人の本当の恐ろしさを理解してないのだから。


 この食うか食われるかの弱肉強食の世界では、あまり敵を作らないようにして、謙虚に堅実に生きながらえる事を考えなければならないのに、新聞社ときたら、新聞が売れるように過激な紙面ばかり作りやがって!

 なにが、無敵皇軍だ! なにが、帝国が誇る荒鷲だ! お前たちは安全な後方に居て、ヤジっているだけではないか!


 そんなにも、日本の国益よりも、自社の売り上げの方が大切なのでしょうかね?

 大切なのだろうね……


 これはちょっと、指導おしおきが必要みたいですね。あと、検閲官の資質の問題もありましたか。愛国的な人間は逆に国を傾ける場合もあるのだと説いても、理解され難いのが頭の痛い問題なんだよなぁ。

 本人たちは、威勢のいい言葉を紙面に載せるのは、国威発揚や国民の士気が上がるので、良かれと思って掲載を許可しているのですから、それをただ闇雲に止めろと言っても、反発は必死ですよね? うーん…… 困ったな。


 困った時は、お父様に相談してみましょう!









『大日本てい国しんみんのみなさま、こんばんは。ふじのみやさくらこでございます。今日は、みなさんにおしらせがあります。


 こうぐんは、けして、むてきではありません。そのじじつに、地上でのせんとうでは、たすうの兵たいさんがなくなっています。そのじじつをわすれてはなりません。せんそうとは、人がしぬのです。

 それをいたずらに、さんびしたり、はやしたてるのは、自分がせんじょうのげんばに立っていないから、はやしたてれるのだと思います。

 それはじっさいに、せんじょうでたたかっている兵たいさんにとっては、大へんしつれいなこういだと、ふじのみやさくらこは、そう思います。

 少しでも、せんじょうでたたかっている兵たいさんの気もちを、おもんばかれるのであれば、いさましいことばをならべ立てるよりも、かんしゃの気もちをことばでいいあらわしましょう。

 兵たいさんには、がんばってください、生きてかえってこいよ、がんばったね、ていこくをまもってくれてありがとう。このかんしゃの気もちで十分だと思います。

 じゅうをうってよいのは、うたれるかくごがあるやつだけとも言います。せんそうをさんびして、あおっている人たちには、そのかくごがありますか? あるのであれば、ぐんたいにしがんしてください。

 なくても、てい国の国えきをそこねるような人は、ぐんたいできょうせいしてくれるそうです。ぐんたい生かつをけいけんすれば、きっと、りっぱなてい国しんみんとなってじょたいできるかと思います。

 大日本てい国りく海ぐんは、じょうねつとやる気のある人をぼしゅうしています! やる気のない人には、やる気を出させるように、きょういくします!


 いじょう、ふじのみやさくらこからのおしらせでした』


『藤宮桜子内親王殿下からのメッセージをお伝えしました。時刻はまもなく、午後七時になります。こちらはJ-AK、日本放送協会東京第一放送です』



 どうしてこうなった……?


 私はただ、戦闘で勝利した結果を、むやみやたらと勇ましく吹聴するのは良くないと、お父様に言っただけなのに、なんで私が、ラジオで自重を求めるようなことを要請する破目になってしまったのだ?

 しかも、なにやら危ない電波を垂れ流してしまったような気がするのですけど、大丈夫なんでしょうかね?


 どうなっても、私は知りませんよ?


 それにしても、いままでで一番、ガリガリと精神が削られた気がするわ……

 解せぬ……






【新聞社に対して、非難の声が殺到! 社主が『行きすぎた煽り文句を書いてしまった』と謝罪!】



 まあ、検閲官が許可したのだから、軍と内務省も悪い気がしないでもない。

 しかし、なんといいますか…… うん、日本人って右へ倣えが好きな民族だよね……


 それにしても、ここまで簡単に国民が動くとは、皇族の発言力を舐めてたわ。まあ、今回の私の発言が、国民にとって不利益がない発言だったのも大きいのかも知れませんけれども。

 でも、ちょっとだけ、日本人の民族性が怖く感じてしまいましたよ。もう少し、自分の頭で考えようよ……


 武士に飼い馴らされてしまっていた期間が長かったから、日本人七千万総家畜化か社畜化してしまったのでしょうかね?

 実に支配する側にとっては、従順で扱いやすい民族性なんだと思われます。


 これって、儒教思想っていうのかな? あー、でも、未来でのお隣の国の惨状を見ると、少し違うのかも知れませんね。

 日本式の儒教思想とでも、思っておきましょうかね! この、日本人の行動様式は、外人には理解できるのでしょうか?


 でも、自分で考えないで、人に言われた事だけをしているのって、実際に楽ですもんね。

 なるほど…… だから、社畜なんて言葉が生まれたのか。うん、納得したかも知れない。


 結局のところ、大多数の日本人は、天皇にお殿様や権威等々、長い物には巻かれるとかが好きなんでしょうね。

 そりゃあ、史実でのアメリカが日本で成功したからといって、それが他国でも通用すると勘違いしてしまって、他国で失敗するわけですよ。


 日本人みたいに色々な面で良いも悪いも、特殊な民族性を持っている民族なんて、地球上の何処を探してもいないはずなのですから。


 それはそうと、この新聞、ライバル新聞社の不祥事に嬉々としている感じがしますね。

 他人の不幸は蜜の味とか言いますしね!


 ちなみに、私は他人の不幸を喜ぶよりも、重箱の隅を楊枝でツンツンする方が好きです。









 1939年6月上旬 ソビエト連邦 モスクワ



「これは、重光大使ようこそ。本日はどのような用件で?」


「モロトフ閣下、外務大臣就任おめでとうございます」


「正確には外務人民委員ですな。ですが、その言葉はありがたく頂いておきましょう」


「欧米流の制度に合わせた方が、貴国もなにかと便利だとは思いますよ」


「それは時期尚早でしょうなぁ。それで、本題は?」


「そろそろ、ノモンハンから始まった一連の戦闘を終わりにしたいとは思いませんか?」


「ノモンハンですか…… 貴国、日本の戦闘機は随分と優秀なようですなぁ。率直に言いまして、羨ましいですぞ」


「おかげさまで、現状では我が国が有利みたいですな。ですが、我が国は平和を望んでおります」


「平和? 和平ではなくて、平和と申しましたか?」


「はい、平和です」


「それは勿論、平和が回復するのが一番ではありますが……」


「和平の落としどころが問題という事ですな?」


「ええ、まあ。貴国によってモンゴルが主張する国境が侵犯されている訳ですから」


「今日は、その為にやって来たのですよ」


「ほう? モンゴルが主張するラインまで即時に撤退してくれるのでしょうか?」


「モンゴルは貴国の傀儡政権なのですから、貴国の側で、モンゴルを宥める事は出来ませんでしょうか?」


「私から言わせれば、逆に貴国、日本の傀儡である満州国を宥めて頂きたいですな」


「それが出来るのであれば、貴国、ソビエト連邦には頼んでませんし、武力衝突も発生しなかったでしょう」


「それは我が国も同じですな」


「はぁ~…… お互いに、傀儡政権には苦労しているという事でしたか……」


「ええ、やれ最新の武器が欲しいとか、駄々を捏ねたりもしますので、大変ではありますな」


「それで、武力衝突の拡大は、どうしますか?」


「どうしますか、とは? 具体的には?」


「貴国はこのまま、我が国との全面戦争に突入してもよろしいのでしょうか? という意味ですよ」


「さすがに、そこまでは……」


「まあ、それはそうでしょうな。我が国、大日本帝国も貴国との、全面戦争までは望んではおりません」


「では?」


「ええ、今日はその事をお伝えしたくて参りました」


「なるほど、理解しました。書記長にはそう伝えておきましょう」


「よろしく頼みます。これからも、現地での武力衝突が続いたとしても、対話は切らさずに続けて行きたいものですな」


「話し相手がいなければ、纏まる話も纏まりませんからな」


「ええ、そういうことです」


「わかりました」


「では、今日はこの辺で失礼します」


「ええ、また後日にでも改めて」



ひらがな長文読み難かったよ…

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