年上の人 7
最初新作うんぬんの話していたから新作に挑戦したいんだと思ってたけど、人が話してると食べたり飲みたくなったりするやつですね、わかります。
前の人たちも新作のココアを頼んだようでお店の人から受け取ると、こちらをちらちら見ながら列から離れて行く。
さてお次は私たちの順番だ。お店の人に注文を聞かれ、リネハン先輩が私の分もスマートに注文してくれた。少し待つと、たっぷりの生クリームの上に小さなマシュマロが可愛らしく飾られ、木のマドラーが刺さった私のココアと、ほかほかと温かい湯気が立ち上る透き通ったゴールデンイエローが目をひくレモネードをお店の人が持ってきてくれた。
「おまたせしました。ホットココアとホットレモネードです。」
「ソロウ、持ってもらっていい?」
「はい。了解です。」
こういう荷物持ちは日頃お世話になってる後輩がやるもんですよね。まして今日は図書委員の仕事手伝ってもらってますし、任せて下さい。
ひょい、と持った瞬間に、リネハン先輩は素早く硬貨を取りだすと店員さんに渡した。ちょっと待って、どう見てもホットココアの分も払ってる!
「待って下さい、払います。先輩、飲み物持って下さい!」
「はいはい、お会計終わったし、次の人も待ってるから行こうか。」
「ええぇ?」
先輩は飲み物を受け取ることなく、私の背をぐいぐいと押して列から離れていく。
「先輩、お金払いますから!」
「はいはい、お店の前だから騒がないよー。」
騒いでるつもりはないのに、リネハン先輩は私を宥めすかせるように声をかけてくる。別に私は営業妨害する気も癇癪を起こして駄々をこねるわけでもない。物を買ったら支払いをするなんて子どもでもわかることで、当たり前のことを言っているだけなのに何でこんな扱いを受けるのか。
「まあまあ。今日も言ったと思うけど、俺奢るよ。俺の友だちがするはずだった本の処分をソロウがしてくれたんでしょ。だからあいつに代わって俺がお礼をするよ。」
天候不良で出来なかったということは過去にもないわけではなかったみたいで、それがたまたま先輩の友だちと私たちの時だったってだけだから気にしてないんだけど。
「あとここに俺1人とか男たちだけで来るのって勇気が必要だったから、そういう意味でもソロウに助けてもらったからそのお礼も含んでいる。」
「あー……」
まあ確かに、ここ複数でやってくる女子が多いから、そんな中に男子が来るとかなり見られるだろう。
「さっきもなんかひそひそされてたけど、ソロウがいなかったらもっと凄かっただろうし。」
いや、あれはそういうひそひそじゃないと思います。多少は私に対する「あいつ何?」っていうのはあったけど、ほとんどがリネハン先輩に対する女心ゆえのひそひそだったので、特に変わらなかったんじゃないかな。
「それはどうでしょう。」
と言うとリネハン先輩はさっぱり分かっていないような表情だったので、もうこれ以上は言うまいとこの話題を強制終了すべく先輩に御馳走になった新作のココアを一口含む。温かいココアでほんのり溶けた生クリームとマシュマロが絶妙なハーモニーを奏でる。これは当たりだ。その美味しさに感動している私を横目に先輩はにこにことしていた。
「どう?」
「さいっこうです!」
「それは良かったよ。」
その後このココアについてひたすら語る私を止めることなくレモネードを飲みながらおだやかに相槌を打つ先輩と並んで歩いて帰った。
そしてやはりと言うかなんというか、学校でリネハン先輩と私が付き合ってるという噂が流れた。
先輩が男1人じゃ行きにくいということ、先輩の友だちの分の仕事を頑張ったご褒美ということ、そういう事情があってリネハン先輩とカフェに行って新作の飲み物をご馳走してもらった次の日から、私と先輩が付き合ってるという噂が流れた。ガチ恋勢の人たちの中だけかなって思ったから、こんなにも噂になっていて正直驚いてる。
寮にいる時はちょいひそひそしてるなぁって思ったんだけど、学校来たらもっとひそひそしてて、教室に入ったらビルにどストレートに「お前リネハン先輩と付き合ってるってほんとなの!?」と聞かれた。問い詰めたところ、昨日私と先輩がカフェデートしながら一緒に帰っていたという情報が女子中心に流れているという。こちらが否定する前に、クラスの女子からは「ステラなら許せるわ。」「おめでとう」「いい人捕まえたじゃん」「先輩は見た目じゃなくて中身重視なんだな!」とか言われた。誰だよ最後言ったやつ。でも概ねみんな優しい……と思ったけど、いやいやそうじゃないよ、そもそも付き合ってないんだから、ということで昨日の真相を話したけど、信じてもらえなかった。
「いやステラ、お前、それはないだろー」
「友だちの仕事を肩代わりしたご褒美を関係ない人がするかしら?」
「しかも2人っきりとか。」
「俺おごってもらってない!」
「ビル、お黙りなさい。」
「わん!」
最後、女王様と犬がいたけど、気のせいということで放っておく。私は他に突っ込まなきゃいけないことがあって、そんなの構ってる余裕なんてどこにもない。
「何回言ったら分かってくれるの。先輩は1人じゃ行きにくいから、労うって名目で私を連れてっただけだってば。」
そう言ってもみんな聞く耳持たないし、なんなら付き合ってるのを隠してんだろうな、という微笑ましい雰囲気を出してくる。普段ならうちらの団結力最高だよねってなるけど、この件に関してはこんな団結力いらないって切に思う。
「はい、席につけーい。」
いつの間に教室にやってきたのだろうか、マクナイト先生がいつものように教師にしてはフランクな言い方で着席を促しつつ教壇に立つ。
先生が来たし、この話はこれまでということでみんなわらわらと席に着く。もちろん私も。
全員が着席したことを確認して、生徒に休みがいないと分かってはいるので「休んでるやつは手を挙げてー」とマクナイト先生が無茶振りをするので、いないなら無理だから!とクラスで総つっこみを入れるのはお約束。
「1時間目は俺の授業なわけだけど、今日は移動しないでここでやるからね。」
と先生が言うと、大喜びの声があがる。何せこの教室から魔法科学室は遠く、授業に間に合うには急いで行かなくてはいけないから朝からへとへとになってしまう。それが今日はないのだからそれは喜ぶというもの。
ああ、それなのに。
「今日は教科書を読んでまとめのレポートを書いてもらうため、ここでもできるし移動時間を短縮したいのよ。」
まさかのレポートにもちろんブーイングの嵐。そんな私たちの様子なんてお構いなしに先生は「うるさい。」と軽く一蹴する。
「ああそうだ、ソロウはレポートじゃなくて俺の手伝いをしてね。」
え、お前だけレポート免除なの?みたいな恨めしい目が私に集まる。隣のビルなんてぎりぎり歯軋りしてる。おバカなやつらめ、私を散々揶揄ったからこんなことになるんだ。
「教材を持って来るの手伝って欲しいから一緒に資料室に来るように。」
マクナイト先生の言う資料室とは別棟にある図書館のもはや先生の部屋と化したあの場所を指す。もちろん魔法科学室より遠いし、そこまで行って教材を持ってくるのは大変なことはこの学校の生徒なら容易に想像がつく。
「待って下さい先生!何で私なんですか!」
「そりゃあ、この間のテスト1番下だったからだよ。」
みんながみんな同情的な目で私を見る。朝からなんて日なんだ、色んな目で私を見てさ。「どんまい」と肩を叩くビルの横っ腹を思いっきりつねって、早く来るように催促してくるマクナイト先生と共に教室を出た。ビルが悶絶していていい気味だ。




