もう1人の貴方 4
慣れないところで寝たからなのか思ったよりも早く起きてしまった。
とりあえずシャワーを浴びて着替えをしてご飯を食べる。昨日買ったシリアルとフルーツにした。ちょっとお高めなシリアルを買ってもらったので、砕いたナッツやドライフルーツが入っていて食べ応えもあるし甘酸っぱくて美味しくてもりもり食べてしまった。
洗濯をして洗濯物を乾かそうと思ったら大きなクローゼットみたいなのが目に入った。そういえば昨日、ここに洗濯物を入れれば魔法で乾燥してくれるとメレディスが言っていたのを思い出したので、昨日着ていた服一式をぶっ込んだ。どのくらいで乾くかわからないけど、どうせすぐ着るわけじゃない。念の為指定のコートはいつでも着られるように洗わずに手元に置いてあるから何とでもなる。
ちらりと時計を見れば授業が始まっている時間だった。
物音はしないし誰も来ないだろうと思って資料室からそっと出て図書館に足を踏み入れた。やはり誰もいない。
暇だし本でも読もうと思って物色してたら学年毎の教科に応じた参考書や問題集の棚があった。当たり前だけどここに収められた本たちは大勢の人が使ったような形跡はない。それはそうだ。試験対策に勉強はするけど、基本授業で出たところしか勉強しないし、参考書や問題集を借りてまでやるなんてよっぽどの勉強好きしかいない。
今の私は数日間体が空いている。戻った時のために復習を兼ねてちょっと勉強しておこうと考えた。
つまり今の私にはここの本がとても魅力的なものである。
色々見ていたら魔法科学の文字に目が止まった。私がはちゃめちゃに苦手な教科だ。参考書もちゃんとあるし、問題集はそれほど分厚くない。
良い機会だ。苦手分野を勉強しよう。
そう考えて1年の参考書と問題集を持って資料室に戻った。
問題集を解いて、分からなかったところを参考書で確認というスタイルでやってみたのだが、最初は良かったけどだんだんと解けない問題が増えていった。気晴らしに運動を兼ねて図書館の掃除を部分ごとに区切って掃除して、それから問題集を解いての繰り返しをしていたらあっという間にお昼になっていて、さらに続けたらあっという間に放課後になっていた。
途中気分転換を挟んだとはいえ、苦手な魔法科学のみ勉強する日が来るとは思わなかったし、ちょっと感動した。
いつの間にか乾いていた洗濯物を畳んでしまったところで資料室の扉が叩かれ、返事をせずに様子を窺っていると向こうから声をかけてきた。
「俺だけど入っていい?」
メレディスだった。
知ってる声に安堵して「良いよ」と言うと扉を開けて入ってきて、手近な椅子に腰を下ろした。
「どうよ、2日目は。」
苦手教科の勉強だったり気晴らしに掃除したりの繰り返しだったことを伝えた。
「真面目か?優等生か?どんだけ良い子ちゃんだよ、俺には考えらんねぇわ。」
うげーと嫌そうな顔をしていた。
確かにメレディスはこういうの無理そうだなと思った。
「真面目でも優等生でも良い子ちゃんでもないよ。魔法科学は苦手でいっつも赤点で補習してんの。しかもその教科の先生が委員会の担当でもあるし担任でもあるし色々思うところがあるからこの数日間でどうにかできないか頑張ろうと思ってさ。」
「赤点ってヤバ。そんだけ顔合わせてるんじゃそいつに文句言われまくりじゃないの?」
「時々言われるけど、酷い言い方はしないよ。私を落ちこぼれと思ってるような言い方でも無いし。」
未来の貴方はそんな人にはなっていない。
今と変わらず面倒見がいい人だ。
「それに私特待生だからある程度の成績を収める代わりに学費が免除されるの。他の教科のおかげで総合点はそれなりになってて免除されてるけど、魔法科学が足を引っ張ってるから頑張らないとまずいってわけよ。」
いつ学費免除の資格が剥奪されるかも分からない。今まで苦手意識を持って疎かにしていたこの教科を頑張る時が来たのだ。
「ふーん。」
テーブルに置きっぱなしだった参考書をぺらぺらとめくるメレディスをじっと見る。
半分以上がまだメレディスは習っていない内容だ。私でさえ意味が分かっていないのだから、メレディスももちろんそうだろうと思っていたら驚きの提案をされた。
「俺が教えてやろうか?」
何言ってんだと思った。
「んだよ、その目。」
「だってこの半分以上がまだ習ってないから分かんないはずでしょ?普通に考えて教えられなくない?」
「ちらっと見たけど、単語とか暗記系は覚えりゃ良い話だし、数式にしてもやり方書いてあんだからそれを解いて覚えりゃいい話だろ。」
簡単に言うけどそれが出来てれば苦労してないんだよ。
「問題集見ると最初の方は出来てんのな。んじゃここぐらいからか。」
ぺらぺらと問題集のページを巡って、そこに見合った参考書のページを開いた。
「ここら辺は習ってるし試験で97点だった。早く終わって落書き描いてたから減点されたけどそれがなかったら満点だったのによ。まあとにかくステラよりはできるんだよ。教えてやるからペンを持て。」
魔法科学で97点、だと?しかも実質100点!
驚愕の点数を叩き出してる暴君に言われるがままペンを取った。
メレディスの説明は意外と上手だった。教科書や参考書だと省かれている途中式を教えてくれたし、単語の解説がとても噛み砕かれていたので説明と単語を紐付けして覚えやすかった。
そうやって何ページか進めていたらとっくに下校時間が過ぎてしまっていた。
「メレディス、下校時間過ぎてる!ごめん長居させて!」
「へーきへーき。時間過ぎようが帰り方はいっくらでもあるし。」
時間は本来守るべきものだし、こんな生徒がいて先生たちは大変だろうなと同情した。
そして慌てていないところを見るとこれが初めてではないことが分かる。
「それよりお茶淹れてよ。ステラのやつ、意外と美味かったんだよな。」
「意外は余計だわ。」
まあでもこんなに長時間勉強を教えてくれたのだからということでお礼に淹れる。ビーカーでお湯を沸かしているとソファに座っていたメレディスがこちらにやってきて沸騰していく様子をじっと眺めていた。
「面白い?」
たまらず聞いてみると頷かれた。
「ビーカーで飲料水を沸かしてるのってシュールでウケる。」
確かに。最初マクナイト先生がこのビーカーで沸かしているところを見た時、私も驚いたしシュールだなって思ってその背中をまじまじと見たものだ。
あれ。
メレディスは本来ここでこうやってお湯を沸かそうなんて思ってもみなかったのに、未来でマクナイト先生は沸かしていた。ということは、こうやって私が沸かしたからこその未来なのか。
いやいや、だとしたらマクナイト先生は入学した私を既に知っていたことになるけど、そんな素振りは2人でいる時でさえ見せなかった。
未来変えちゃったのかな。余計なことをしないように注意を払わなくては。
今回のことはバリエンダール先生に会った時に相談しよう。だって先生だもん。どうにかしてくれるはず。
「おいステラ!沸騰してんぞ!」
慌てたその声にはっと我に返り急いで火を止めた。




