年下の彼
「今年はお前たちが図書委員か。」
恒例の委員会決定戦はやっぱり図書委員が最後まで決まらなかったが、コイントスでの戦いの結果、私は今年も図書委員継続となった。相方になった子は図書委員会の大変さがわかっているけど、担当のマクナイト先生がここにいるのでとにかく無表情だった。ちなみに去年同じく図書委員だったビルは今年は委員会に所属していない。来年は私もどこにも所属したくないものだ。
「ソロウは去年もやってるし勝手は知ってるな。まあ、今年度よろしく。あと委員になった奴らは、今日委員会があるから忘れないように。」
相方は相変わらず無表情だった。
委員会も決め終わった後に、みんなで講堂に行き、教科書を購入した。今年から実技教科も理論などを学ぶために教科書必須となった。座学は言うまでもなく、なんなら教科書と資料集を用意しなければいけない教科もあって結構な数になり、紐で縛って持っていく人もいれば大きなリュックで持っていく人もいる。ちなみに私はリュックを持ってきた。教科書を詰め込んで重くなったリュックを背負って教室に戻ろうと歩き始めると、私たちを引率してきたマクナイト先生が隣に並んだ。
「2年が1番重いんだよなあ。」
しみじみとそう言う私。
「1年は広く浅く基礎を学ぶから教科書の種類は多いけど1冊1冊は枚数が少ないから軽い。3年では選択教科のみを狭く深く学ぶから教科書は分厚いけど冊数が少ないからそこまで重くない。2年は1年の発展と応用だから冊数も多ければページ数も多いから大変だよな。」
「そう思うなら、この時だけ魔法解禁してくれたらいいのに。そしたら身体強化するなり、バッグか教科書に重量変化の魔法をかけることができるのに。」
ここは魔法を学ぶ学校だけど、常時使って良いわけではなく、授業のときや特別に先生が許可した場合ではないと使えない。図書委員会が良い例で、不要の本は自力で運ぶけど、燃やすのは魔法を使うことができる。
方針として、魔法の理論や展開方法を学ぶけど、それは楽をして怠惰な生活や自堕落な人生を送るためのものではない。魔法を使わなくてもできることは自力でやるべき、というものだ。
「学校の方針はわかりますけど、この重さって人間の限界超えてません?学校側が必須として購入するように言ってるのだから、運ぶ際魔法使うことぐらい許してくれてもいいのに……。」
歩くたびに肩に紐が食い込むし、足取りも重い。私よりも小柄で華奢な子が運んでいるのを見ると胸が痛くなる。
「その気持ちはわかるよ。ただ、俺は、要職でもない一介の教師だから、こればっかりはどうにもできないんだ。」
そんなの分かっている。今ばかりは愚痴をこぼしたくて、その時隣にいたのがマクナイト先生だったというだけ。
「ソロウ今年も図書委員だな。」
「そうですね。」
「ほんとお前と縁があるわ。」
それは去年から私も思っていたし、さっき図書委員に決まった時、だいぶ太すぎる縁だと思った。
「ビルも図書委員だったら完璧でしたね。」
「確かに。」
マクナイト先生が小さく笑っていた。先生は強く感情を表すタイプではないらしく、爆笑などするところを見たことがない。1回で良いから大笑いするところを見てみたいと思ったり。
「私頑張りますね!」
「おー。ついでに魔法科学も頑張って。補習から脱出して。」
「それは……なんとも……。」
声を上げて笑わせる!と意気込んだものの、先生はきっと委員会のことと捉えていて、さらに発展させて魔法科学の話題まで持ち出してきた。話がころころ転がって行った上、最後は私に厳しい話になってしまった。
そうやって話しつつへとへとになって教室に到着した。先生は教壇に行き、私は席に着く。ビルは帰ってきてたようで、購入した教科書をチェックしていた。
「ステラおかえりー。」
「ただいまビル。」
「帰ってきたのステラが最後だよ。」
壇上に立つマクナイト先生が教科書を確認するよう指示を出していた。先に帰った人たちはもう終わっているだろうけど、私を含めて終わっていない人もいる。何か不備があった場合、今日中に報告しないと取り扱ってくれないため、急いで確認した。
「ぱらぱらーっと見たけど、内容としては基礎ができてる前提でってものが多いわ。こりゃ1年の教科書が手放せないやつ。捨てないで良かったー。」
確認作業があるため返事をすることなく聞き役に徹する。ビルもそれを分かっていて返答を求めるわけでもなく話している。
「実技は魔法構築発現理論なんて教科書あるよ、去年まで何も考えてなかったけど、こういう理論も今年から学ぶってことだよな。はー……実技は好きだけど、座学で理論入れてくるとかずっと好きでいられるか不安。」
何それ、実技に関するビルの気持ちって恋愛みたいじゃない。ほんと、何それ。ちなみに私は実技については好きでも嫌いでもない。
その後もビルのだらだらとした独り言が続いている中、私はひたすら教科書の不備を探した。ビルの話を無視し続けた甲斐があって、全て確認が終わったし、とくに不備がなくて本当に良かった。
「そろそろ教科書の確認終わりましたかー?」
タイミングよくマクナイト先生がみんなに声をかけてくるので、みんなと一緒に返事をする。聞いていると、みんなも不備がなかったようだ。
「特になんともなかったみたいで、良かった良かった。委員会のあれやそれやがあるから、就任した者はこのあとそれぞれの教室だの部屋だのに行くように。決めたときに教えただろ。それじゃあ解散。」
というわけで、肩を落としている一緒に図書委員になった子とここから遠い図書館に向かうことにした。
ちらりとマクナイト先生を見てみると、まだ何か準備をしているようなので特に声はかけずに先に行くことにした。
「あ、ステラ先輩だー」
雑談しながら図書館に着き空いている席について一息ついていると、後ろから声をかけられた。振り向くと、案の定エリク君がいた。隣にいるのは同じクラスメイトで一緒に図書委員になった子だろう。エリク君が先輩に馴れ馴れしく声をかけたため驚いているように見えた。ちなみに私のクラスメイトは知り合いかなあぐらいにしか思ってない表情だった。
「先輩も図書委員だったんですね。あ、この子は一緒に図書委員になったアリシア。」
エリク君に紹介され、その女の子は小さな声で「よろしくお願いします」と挨拶をしてくれたので、こちらも挨拶を返した。
「はじめまして。もうわかったと思うけど、私はステラ。こっちはオーケ。」
「これからよろしく。」
クラスメイト、もとい、オーケが穏やかにそう言った。去年一緒だったビルとは違って、オーケは本当に穏やかなタイプで口癖は「まあまあ」と「そっかそっか」だ。
お互い自己紹介をしたところで、マクナイト先生がやってきたので着席して口を噤んだ。オーケが私の右隣で私の目の前がエリク君、その隣にアリシアが座った。
「じゃーこれから始めるよ。俺はメレディス・マクナイト、魔法科学を担当している。一年間よろしく。」
自己紹介した流れで先生によって委員会の活動内容がなんとなく説明され、その後はみんながどきどきする役職選抜が開催された。去年同様くじ引きで、なんとびっくり、今年は私が委員長でオーケが副委員長だった。どっちもマクナイト先生の受け持ちなんだけど、先生と会う確率が高い分なにかと仕事を任されたりするんじゃないの。これ何か細工してないんじゃないかな。
若干の疑問はあるまま、先生によってなんとなく説明された内容を少し補足して説明する。あとは活動の当番表をみんなに回して学年とクラスと名前を記入してもらい、それを読み上げる。図書委員のみが入ることを許されているカウンターに貼り付けて、忘れた場合はここを確認するよう伝えて、あとは解散になった。
「ステラ先輩、オーケ先輩、一緒に帰りましょう!」
帰りませんか?ではなく、帰りましょう、と決定事項かのようなお誘いをエリク君によって提案された。彼の隣にはアリシアがいて、にこにことこちらを見ている。
「いいよー。」
こちらもにこにことオーケが了承する。この後特に予定はないので、私も頷こうとした矢先だった。




