年下の彼 1
先輩たちが卒業して半月が経ち、ついに私たちは2年生となった。そして先日の入学式で私たちの後輩をこの学校に迎え入れた。
全然自覚がないけど、私たちは先輩であり後輩という立場でもある。本当、全然自覚ないけど。
ちなみに担任は持ち上がりでマクナイト先生で知ってる先生で嬉しいは嬉しいけど、今年こそ年齢不詳の美人教師のバリエンダール先生!と意気込んでいたクラスメイトが落涙していた。
もちろん、隣に座るビルも。
「バリエンダール先生……!」
進級した先の教室で今年の担当教師と初お目見えなのだが、マクナイト先生を見た瞬間にビルは机につっぷした。
これから先生が色々説明するのに大丈夫なのか。
「俺もみんなも自己紹介省きまーす。去年となんか変わった人いる?改めて自己紹介しなきゃいけないような変更点ないよね?はいじゃあ今年もよろしくー。何人か泣いてる奴いるねぇ。」
「泣いてなんか、ないんだからね!」
机に拳を叩きつけてよく分かんないことをでっかい声で叫ぶビル、それに同意する仲間たち、それを見て引き気味のその他クラスメイト。
「はいはい。この光景も毎年のことだから何も言わないぞ。あとカリキュラム表と必要教科書の紙渡しまぁす。」
マクナイト先生が指をパチンと鳴らすと、先生の前に置かれていた紙が一斉に舞い上がりそれぞれの目の前に着地した。
ちなみにビルは机に突っ伏していたため、書類は横に着地している。
「ちょっとビル、そろそろ起きなよ。」
肩をぽんぽんと叩くと、やや経ってビルが起きたが、気持ちが入らないのかぼんやりと書類を眺めていた。
「教科書は明日講堂で販売するから、持って帰れるよう対策取っておくように。それ以外のものは自分で用意してくれ。ついでに明日は恒例の委員会決めがあるから、何やりたいか決めてて。ちゃんとした授業は明後日から。何か質問は?」
去年と流れは一緒だから特に質問は無く、他のみんなも同じよう。
カリキュラム表に目を通すと、去年履修科目だったものが数個消え、今年から新しく履修科目になったものが増えていた。名前から察すると、1年次に総合的に勉強して今年は専門的に詰めていくと見受けられた。
「さて、お前たちもついに先輩だ。まあなんだ、今まで自分たちが苦労したこと楽しかったこと、そういうのを教えてあげてくれ。経験者は語るってやつで、つい最近学習した奴からの失敗や成功談ほどためになるものは無いからさ。」
妙に教師らしいことを言っている。いや紛れもなく教師なんだけど。
「じゃあ今日はここまで。解散でーす。また明日。」
進級初日だけどあっさりと終わった。要点を述べて必要な書類をもらったから、長々と話されるよりは良いのかもしれない。
「ステラはこのまま帰る?」
いつのまにか復活したビルに話しかけられた。
「いや、学食食べてから帰ろうかな。ビルは?」
「俺は妹と学食で昼一緒に食べる約束をしてた。」
「あーそっか。今年入学って言ってたもんね。」
「そうそう。ステラも一緒に食べね?妹が髪飾りの件でお世話になったからお礼したいって言ってたんだよ。」
そういえば前にマクナイト先生と私で話を聞いたときがあったっけ。そしてそれを妹さんが知っているということは、あの流れをビルが話したということ。自分の手柄にしないで正直に言うところがビルらしい。
妹さんの気持ちはとてもありがたい。
「気持ちはありがたいんだけど、2人とも久しぶりに会うんでしょ?今日は家族水入らずで楽しんできて。私はまた今度誘ってよ。」
ビルは寮に住んでいるし、久しぶりに妹さんと会ったはず。積もる話もあるだろうし、今日は2人でご飯食べながら楽しんでほしい。幸い今日はもう授業がないし、時間はいくらでもある。
「そっか、わかった。じゃあ食堂まで一緒に行こー。」
「良いよ。」
と言うことで、2人で食堂に向かうことになった。
いざ食堂についてみれば、やはりいつもより人が少ない。外で食べる人が圧倒的に多いので、私のバイト先も忙しいことだろう。ただ数か月前から昼メインの人とオールで働けるひとを1人ずつ雇用できたため、店は前より回るようになっていたし売上も伸びていた。人が増えたことで私が働く時間は少し減ったけど、それでも必要な収入の最低ラインよりも上なので気にしていない。
「じゃ、あっちに座るから。」
誰もいない窓際の席を指さす。
「おー。んじゃ!」
そうしてビルは軽く手を上げ、そこそこ人がいる方に向かっていった。見ない顔が多い。きっと外食ではなく学食にした1年生のグループだろう。
今日は授業が終わりで時間もたっぷりあるから、学食ではなく外食の人たちが圧倒的に多い。それこそ卒業式で成立したカップルたちは外で一緒の時間を共にしている。それ以外にも進級祝いと称して友だちとわいわい外食している子たちも。ちなみに私はどっちでもないため、こうして学食にいる。学食美味しいし、無料だし嬉しいこと尽くしだから喜んでここで食べる。
1人で食べるには多い食事が用意されいる長いテーブルの端の方に席に着く。ここの学食は長いテーブルがいくつか並べられ、そこに何脚もの椅子が置かれている。そうしてテーブルの上には大皿に載せられた食事や飲み物が並べられていて、好きなものを好きなだけ取って食べることができる。作るのは人だけど、魔法でもってこのように用意されている。そしてその魔法のおかげで温かいものは温かいまま、冷たいものは冷たいまま美味しくいただけるのだ。
とりあえず席について、一枚取った皿に盛りつける。
そういえば以前にマクナイト先生に教師専用の食事を御馳走してもらったとき、小食かつ野菜は嫌いで肉が好きといっていた。そんな話をしていたから、知らず知らずのうちに肉を多めに皿に盛ってしまった。ただ私は偏食でも小食でもないので、パンやサラダを新たに取った皿に盛る。
静かに食べていたときだった。
「あれ、チキンサンドの人?」
チキンサンドの人ってどんな人だろう。ただこんなにも近くにいる上、周りに人が皆無なのだからきっと私に話しかけてきたはず。口の中のものを急いで咀嚼して顔を上げると、テーブルを挟んで向かいに少年が立ってこちらをきらきらした目で見ていた。私の暗い色味の長い髪の毛とは対照的に、くせ毛でお日様のように額にきらきら光る金髪がとても印象的な子だった。
「どちら様でしょうか。」
「あ、すみません。1年のエリク・エッカートです。」
「2年のステラ・ソロウです。」
今年入学したらしく、幼さが残るような少年だった。自己紹介されたので、とりあえずこちらも自己紹介で返した。
「それで、チキンサンドの人って?」
「ステラ先輩って橋の向こうのチキンサンドがめっちゃ有名なお店で働いてますよね。俺、よくそこに行くんです。あのサンドが好きで。」
確かに橋の向こうのチキンサンドが有名な店で働いている。なるほど、そういう意味で言ったのか。チキンサンドの人なんて言うから、他の意味で捉えてしまったじゃない。
「先輩は俺のこと知らないですよね。あ、昼食一緒にしても?」
「どうぞ。」
私の了承を得て向かいの席に腰を下ろして飲み物を用意したかと思うと、更に盛り付けている。見ていると私やマクナイト先生のようにチキンソテーを大量に盛り付けていた。チキンサンドが好きなだけあって、きっとチキンが好きなんだろう。
「それで先輩って俺のこと分かんないですよね?」
「……申し訳ないけど、覚えてないの。」
「いえ、気にしないで下さい。俺が買いに行ったとき、必ずステラ先輩が毎回対応してくれたわけじゃないのでそうだと思います。テイクアウトしたとき先輩が中で働いていたり、中で食べている時に先輩が外で接客していたときもあったので。ただ覚えててくれたら嬉しかったな、ぐらいです。」
妙に罪悪感を覚えるけど、あそこは人がたくさん来るので毎日来る人は覚えていられるけど、その他の人たちはなかなか覚えられずにいる。気にしないでいいらしいので、そこについては言及しないことにした。
「こっちが勝手に見知ってるだけなんですけど、知ってる人がいたので声をかけちゃいました。」
そう言われたので聞いてみれば、知り合いは皆普通の学校に行ったようで、エリク君だけがここに進学したそうだ。そうなると心細いだろうし、友だちとは言えないけど、知っている店員がいれば声をかけたくなる気持ちは分かる。
ちなみに私の場合は、入学した日に隣だという理由でビルが話しかけてきたし、人との距離感が近いビルと仲良くしていたためクラスメイトとも初日に打ち解けることができた。
「王立ほどじゃないけど、ここも特殊な学校だもんね。知り合いが少ない人の方が多いよね。」
「そうなんですよねー。まあ、分かってて入学したんですけど。」
「それもそうだ。」
食べ盛りの少年らしく、エリク君はおかわりをしている。所作は綺麗なのだけど、たくさん食べている。飲食店で働く身としては気持ちがいい。
「あ、そうだ。ステラ先輩ってこのあと用事あります?バイトとか。」
「夕方からバイトあるけど、それまで時間はあるよ。」
基本的に夕方からの固定時間で働いているため、今日はわりと時間がある。
「あ、そしたら校内案内して下さい!」
きらきらした目をしながらそう言われた。こう言っているのだから、エリク君も時間があるのは明白だ。
「明日教えてもらえるよ。担任が言ってなかった?」
「言ってました!」
元気よく返事をされる。言われたなら明日でいいじゃないかと思ってしまった。なんだろう、ごめんね。
「言ってたんですけど、ステラ先輩ともっと話したいし、話しながら校内を案内してもらえたら楽しく覚えられると思うんですよね。」
なんだろう、ビルと同じで人懐っこさはあるんだけど、タイプの違う子犬のような。まあでもいい子だし、人との距離の近づき方が上手な子だし、一応お店という共通点もある。それなら案内してもいいかな、と思い提案に了承した。
マクナイト先生は言わずもがな、私よりも大量に食べるエリク君と一緒に御馳走様してから、本棟を主として案内した。
「この渡り廊下の先が別棟?案内してくれないんですか?」
とは言われたけど、別棟に行くとしたら委員会などの理由で場所としてはピンポイントで行くことになる。今教える必要はないとして却下した。図書館はあるけどそれぐらいだし、明日ある校内の案内でどうにかなるはずだ。
案内という名目の歩きながらの雑談終わり、エリク君と別れの挨拶をした。彼としてはもっと話したかったみたいだけど、こちらとしては進級早々忘れ物など不備があったら嫌だし色々と学用品の買い出しもある。それにその後はバイトだ。そう言って、帰寮した。
エリク君、話しやすい子だったな。




