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12/23

年上の人 12

「すみません、すぐ出ます。」


 この場を去ろうとすると、「ソロウ」と先生に呼び止められたので立ち止まって振り向く。


「昼食、何か持ってきてんの?」


 みんなが急いで食堂に行く中、こうやってのんびりと用意していれば先生がそう思うことも不思議ではない。実際、昼に食べるものを持ってきて食べている人もそれなりにいるし、なんなら外に出て食べている人もいる。


「いいえ。ただ落ち着いてゆっくり食べたいので、みんなと少し時間をずらして食堂に行くんです。」


 遅めの時間に食べに行ったとしても、昼休みは長いので急がずにゆっくり食べることができる。なんなら食後の飲み物もまったり飲める。


「なるほどね。」

「そういう先生はどうなんですか?」

「俺は基本的にここか、図書館にいればそっちで食べるよ。」


 図書館、つまり資料室という名の先生の部屋で食べるということか。でも今日は授業が終わってこのままここで、という流れなんだろう。


「てことは自前のものを持ってきてるんですね。」


 自炊をしていなさそうなので、朝にどっかでモーニングを食べながらそのまま昼に食べるものをテイクアウトしてると見た。

 そんな想像を掻き消すように、先生に否定されたので驚いてしまった。


「職員は別メニューで用意されてて、食堂に行かなくても自分が食べたいところに取り寄せられるんだよ。」


 なにそれ色んな意味で羨ましい。


「別メニューってことは私たちのより豪華なんですか?」

「豪華っていうか、片手で食べられるものが多い。何かしながら食べられるようにな。あとは量が多い。これは保存魔法かけといてあとで間食できるようにだな。」


 片手で食べられるって、昼食の時間も無駄にしたくない先生がいるってことなんだろうな。その結果、先生たちだけの別メニュー。なるほど。


「それは気になりますね。」

「じゃあ一緒に食べる?」


 まさかのお誘いに一瞬驚いたけど、普段見ることがない先生たちの昼食への興味が優ったし、ここから動くことなく食べられるということに大変魅力を感じたのでありがたくお誘いを受けた。

 促されるままにさっきまで座っていた席に座ると、その向かいに先生が座る。そしてパチリと指を鳴らすと思っていたよりも大量の昼食が現れた。一口大に切られた数種類のパンが乗っているお皿、色とりどりのフルーツが置かれているお皿、多彩なソースとカリッと揚げられたポテトにナゲットやピックが刺されたローストビーフ。あとは野菜のピンチョスやらケーキやらゼリーやらなんか色々。あとは牛乳と水となんかの飲み物があって、聞けばフレッシュなベジタブルジュースとのこと。


「思ったよりも量が多かった!あと生徒よりもメニューが豊富で豪華!」

「期待通りの反応をありがとう。俺もさ、教員の昼食は豪華で大量って聞いてたけど想像してたより凄くて驚いたよ。あと帰るまでに食べきれるかな、とも思った。」

「マクナイト先生って小食なんですか?」

「こう見えてな。」


 元気いっぱいっていうタイプじゃないし見た目もがっちりしているタイプじゃないから、食べられるか食べられないかのタイプで言えばあきらかに前者だったから先生の発言には驚くことはない。

 見た目に反して意外と食べるって人もいるけど、先生はそういう人たちの枠には入らなかったということだ。


「最初は先生の貴重なお食事をいただいて大丈夫なのかなって思ったんですけど。」

「安心しろ。むしろ食べてくれ。」


 話を聞く限り、私が心配するような事態にはならなかった。


 食事と一緒に取分け皿が数枚用意されていたので、それを一枚だけ取ってデザート以外は全種類取ってワンプレートにまとめる。みっちりと乗っけてるから行儀が悪いかもしれないけど、違うんです、食器を何個も使うのも気が引けるのでこういうスタイルになったのです。なんて言ってるけど、たとえ味が多少混じったとしても食べるのが楽っていうのはある。それに先生も気にする性格はしていない。そんな拘りがある人だったら紅茶のお湯をビーカーで沸かしたりはしない、はず。


「皿いっぱいに盛ってるなソロウ。」

「行儀悪いですか?すみません。これ食べ終わったら次からはきれいに盛りますね。」

「次があるのか。食欲があることは結構だ。たくさん食べてくれ。あと公の場ではないし俺としか食べてないんだから行儀とか気にしなくていい。とにかく沢山食べてくれ。」


 非公式な場所だから気にするな、と。良かった良かった。たくさん食べてくれと数度言われたので先生の切実さを感じられたので、それを大義名分にがっつり食べることにしよう。

 バターの風味が豊かなサクサクのクロワッサン、適度に塩味の利いたポテトにからりと揚げられているのに中がジューシーなナゲット、甘酸っぱいトマトとピクルスのチーズのピンチョス、なんか分からないけど美味しいソースがかかったしっとりとしたローストビーフ、濃厚な牛乳。全部が美味しい。

 無言で夢中で食べていたけど、なんとなしに先生の皿を見たらパンとローストビーフのみでお供が牛乳でもベジタブルジュースでもなく水だった。


「量少な!それに野菜要素皆無!」

「野菜って基本苦手。生野菜なんて野菜のお味がダイレクトすぎて無理。フルーツなんて甘いだけのお野菜だよ。」


 野菜苦手って子どもか。お野菜って子どもか。


「肉は平気なんですか?」

「大好きだよ。肉最高。」


 確かにパンより肉の配分が多い。肉大好きとか子供か。偏食とか子供か。


「いつもこんな感じなんですか。」


 1杯目の牛乳を飲み干して2杯目の牛乳をコップに注ぎながら聞きつつ先生を見ると一口サイズのパンを2つに千切ってさらに小さくして食べている。リスが食べるサイズ感じゃない?


「こんな感じって?」

「決まったものだけ食べたり、食べる量が少なかったりです。小食ってことでしたけど、思ったより少なくて驚きました。よく病気にもならずにその体形を維持できますね。」

「偏食とこの量は今に始まったことじゃないよ。風邪なんて年に数回だし、不健康な細さじゃない。やっぱり肉って偉大だよ。」


 今までは若さで乗り切ってきたのかもしれないけど、これからはそうもいかないはず。内臓はやられてるんじゃないかな。それに肉とパンがメインなんて将来わがままボディになるし、病気にもなるはず。


「栄養価が高いし肉が偉大なのはわかりますけど、野菜とかフルーツもちょっとは食べた方がいいですよ、そっちの方が長生きしますよ。もちろん無理強いはしませんけど。」

「そうだろうけど苦手なもんは苦手なんだって。」


 これ以上言うのは良くないので、そこで話題をお終いにする。


「マクナイト先生の食事スタイルからすると、この食事って全部食べ切れないんじゃないんですか?」

「食べられないよ。」

「だから私を誘ってくれたんですね。もったいないですもんね。」


 残しちゃだめということも無いけど、どうせ残すなら少しでも減らしたいものがあるよね。


「普段はブレンダ先生に食べてもらってるから残るってことはないよ。あの人そんなに食べませんって顔してるけど、何でそんなに食べられるの?本当に同じ人間?ってくらいめちゃくちゃ食べるんだよ。」


 ここでまさかのブレンダ先生の新情報。偏見かもしれないけど、ブレンダ先生ってなんかおしゃれなスムージーとか飲んだり得意げにバランスとか考えて食べる時間や食べる量をコントロールしているかと思っていたから、今のマクナイト先生の話を聞いてそうではないと知ってだいぶ驚いた。


 今の口ぶりからすると、食べ物をシェアするくらいにはマクナイト先生とブレンダ先生のお2人は仲が良いということがわかった。普段から食べてもらってる、そう普段。


「つまり、いつもブレンダ先生が食べてる分を私が頂いてるってことですよね。」


 ブレンダ先生がこの分を食べることができないとなると、お腹を空かせるんじゃないだろうか。マクナイト先生の食べ物をマクナイト先生がどうしようと勝手なのだし私が気にすることではないけどちょっと後味が悪い。

 そんな心配が過ぎってパンに伸ばす手が止まった私に対して、先生はひらひらと手を振る。


「気にしないでよ。ブレンダ先生は午後は外部でお偉いさん方とお話しして会食って流れだから。」

「なるほど。」


 そういうことなら、とパンに手を伸ばし食事を再開する。

 ということは、明日以降は基本的にブレンダ先生は学校にいるのだし、もうお呼ばれすることはないのか。まず残念という気持ちになったけど、それはこんなに美味しいものが食べられなくなるからだろう。きっとそうだ、そうに違いない。質より量派だけど、質も量も保証されているならそっちの方が良いに決まっている。


 食事中で行儀は悪いけど、食べながらマクナイト先生と他愛もない雑談をしていると、なんと前置きもなく突如としてぶっこまれた。


「そういえばリネハンと約束した1ヶ月にそろそろなるだろ。返事は決まってるの?」


 ちょっと前には好きな色はお互いに青ということで若干盛り上がっていたのに、まったく関係無い話題を先生から切り出された。


「この流れでその話題ですか。」

「なんか思い出したから。」


 何となく思い出されて何となく聞かれた私の気持ちを察してほしい。何となくで話す話題じゃないよ。

 気になったことはすぐ調べないと気になる性分なのかな。そうだよねここの教師陣って基本自分の研究とかに余念がない人たちだもんね。先生も洩れずなんだね。


「決めてます。」

「変わることはない?」


 それなりの期間をもらって考えた結果だから迷うことはない。


「はい。」

「そうなんだ。」


 それで終わった。いやいや、


「どうするのかとか聞いてくる流れじゃありませんでした? 今!」

「いや、ソロウの中でちゃんと決まってるならそれ以上聞かないよ。まだもだもだ悩んでるんだったら話くらいは聞こうかな、ぐらいには思ってた。」


 そこで腑に落ちた。

 今日こうして誘ってくれたのはブレンダ先生の件はあるんだろうけど、前回同様に悩んでいるようだったら話を聞こうとしてこうやって2人の時間を作ってくれたのだろう。

 やっぱり良い先生だな。


「マクナイト先生。」

「何?」

「ありがとうございます。」

「良いんだよ。」


 授業の用意など特に用事はないと先生が言っていたので、昼食を食べてからのんびりと話をしていた今日のお昼タイム。その後はそれぞれの授業に行くため余裕を持って解散し、午後一番の授業を受けたのだけど先輩への返事のことを考えたら授業どころじゃなくなった。先生のせいでさっぱり頭に入ってこない。何であそこで話題に出した、だいぶもやもやしているんですけどマクナイト先生どうしてくれるんですか。良かれと思って言ってくれたと思いますけど、ほんとどうしてくれるんですか。

 とりあえず帰ったらこの授業の復習……というもののノートを読み返すだけはしておこうと思った。

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