年上の人 11
マクナイト先生に相談して方向性が決まったため、心に余裕が出てきた。おかげさまでいつも通り授業を受けるし友だちと話すしバイトだって出来た。
あの告白の後リネハン先輩は特に態度を変えることはなく、普段と同じように接してきた。学年が違うし学校ではなかなか会えないけど、会えば雑談ぐらいはする。その時に食べ歩きの約束をして仲良く遊んだり、というところも変わらずだった。前と少し違うのは、その度に少しの差とはいえ年長者の落ち着きを見せられて前よりも安心感があるということ。そして相談に乗ってもらったうちの担任にして魔法科学の先生のことを思い出す。マクナイト先生の方が年が離れているのに、失礼ながらリネハン先輩の方がしっかりしているように感じる。むしろマクナイト先生は年長者というよりちょっと大人な同級生という雰囲気だ、と考えて思い出す。そうだ、先生はあれで意外と生徒目線で話をしてくれる。その差なのだ。でもそんなマクナイト先生のことを私は嫌いではないし、大多数の生徒がリネハン先輩とは違った意味で先生を好意的に見ている。
今は授業中で教壇に立って何か説明しているマクナイト先生のことを眺めながら板書をとる。
担任だし委員会の顧問だし何かと話す機会はあるし、何より相談に乗ってもらいプライベートな話もそこそこ聞かせてもらったから先生はどう思っているかは別として、私としては他の先生よりも親近感を持っている。
「ねえねえステラ。」
マクナイト先生を見ながらぼーっと考えていたら隣に座っている女子友に声を掛けられた。ビルほど仲が良いわけでもないけど、クラスに来ればわりと話すそんな適度な距離感の子だ。
「マクナイト先生ってさ、アリじゃない?」
「え。」
マクナイト先生が、あり。
ありの意味を考えるけど、女子がこっそり可愛く話していたらだいたいが恋愛の話と相場が決まっている。つまりマクナイト先生は恋愛対象射程圏内ということなんだろう。
「あ、ステラはリネハン先輩がいるかー。」
「それは噂ね。」
知ってる知ってる、なんて笑いながら返される。まあこっちも冗談だって分かっているから怒ったりはしないし、この子も諸々分かっている。
「それでマクナイト先生だけど、顔のパーツ的に悪くないよね。何気に足長いしスタイルが良い。」
それは私も思ってた。可愛いとかかっこいいより綺麗の部類に入る顔立ちだし、前開きにしているコートから見えるベルトの位置はわりと高い。そしてコートの裾から出ているパンツはすらりとしたデザインでわがままボディじゃないことがわかる。シャツを見る限りではお腹周りもすらりとしているはず。そして姿勢が良いからさらに綺麗に見えるのだ。
「たださ、ブレンダ先生は大人の色気って感じの気だるげ感なんだけど、マクナイト先生は違う方の気だるげさじゃない?そこが残念ポイント。」
ブレンダ先生と言われて思い浮かべる。
ブレンダ・バリエンダール先生。私が得意な国史を教えている。ちなみに国史が得意でも好きでもないけど授業を受けたいという男子生徒は特に多い。その理由としては言わずもがな先生が圧倒的な美女だから。お手入れされたつやつやの髪の毛をまとめ上げて露わになっているうなじが美しい。支給されたコートのボタンを閉めてかっちりと着こなしていても出るとこは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいるということが分かるし、一部のコアなファンを掴んで離さないうっすいストッキングに包まれた足元を飾るピンヒール。ピンヒールなだけにフェチにぐっと刺さるらしい。そして何よりぽってりとした唇とたれ目というコンボ技も持っていて大人の魅力が抜群なのだ。男子生徒は言わずもがな、女子でもその大人の魅力に憧れる人が多い。ブレンダ先生はしばらくクラス担任はしていないらしく、毎年毎年自分の担任になるのではと期待してその望みが叶わないと知り泣き崩れる生徒が一定数いるらしい。
そんなブレンダ先生はずっとここの教師をしているらしく、その見目は変わらないらしい。いつぞやの猛者が先生にいつからここの教師をしているのか、年はいくつなのかと聞いたところ「それは内緒よぉ」と色気たっぷりに言われたそうで膝から崩れ落ちたという話が代々先輩から後輩へと受け継がれている。
さて、それに対してのマクナイト先生。大人の色気というよりか、単にやる気がないとかそういう意味での気だるさにしか見えない。強いて言えばブレンダ先生と同じく先輩から後輩へと受け継がれる話があるという点では一緒なのだけど、話の中身は「童顔と言われたら怒る」という残念なものではある。
「ステラはマクナイト先生どう思う?」
「そりゃ良い先生だと思うよ。」
この言葉に尽きる。そもそも恋愛枠にいないので、アリかナシかで測ることができない。
「話すと楽しいし、相談とか乗ってくれるしね。」
「それね、わかるわかる。そう考えると先生って彼氏っていうか大切な友だち?親友ポジションで良い人止まりだからナシってことね。」
「それは、」
「そこの2人!」
いきなりの大きな声にびくり、と肩を震わせると、教科書を持ちこちらを見ているマクナイト先生と目が合った。私たち2人とも話しすぎたようだ。すみません、と揃って言おうとする前に先生が再び口を開いた。
「人を残念とか言うなよ。俺だって大人の魅力くらいある。」
話の流れは分からないけど、先生の発言にクラスのみんながどっと笑った。
しっかり内容まで聞かれていたらしい。
「あと親友ポジとか良い人枠とか暗にモテないって言わないように。」
さらにみんな爆笑。声の大きさ順に発言を整理すると「イケメンの持ち腐れ!」「よっ!味のある魅力!」「いつまでも本命になれない!」など、これ言っていいやつか?と疑う言葉が出ている。他にも色々聞こえるけど割愛。
っていうか、話してたことを怒られるかと思ったけど、話してた内容に対して怒られた。私が言うのもなんだけど、違くない?先生としてはナシじゃない?
「先生ごめんなさーい!でも今までで良いお友だちでいようねって振られたりしたことないんですかー?」
隣の子は笑いながら先生に切り込んでいった。それを聞いたみんなはさらに大盛り上がりを見せている。
異様な盛り上がりを見せる生徒に対して先生はげんなりとしていた。
「何でそんなことお前らに言わなきゃなんないんだよ。」
「そう言うってことは過去にそんなことがあったんですか!」
「有ろうが無かろうが絶対言わないね。」
結局どっちなんだと騒ぎになったけど、先生より「それじゃあ今日の分レポート書いて明日提出するように」との一言で一気に盛り下がりを見せた。
今日の分というと、いつもよりも多く教科書が進んだ。それをレポートにしろと言うとは、これ絶対に根に持ってる。こんなの大人じゃない。子どもがやることだ。
恨めしく先生を見ていると、こっちに背中を向けてさっさと教科書を棚にしまったり魔法でもって黒板に書いた文字やら数式を消していた。それらが終わるとくるり、とこちらに振り向いた。
「さてと、これで授業を終わりまーす。」
そのすぐ後に授業終了の鐘がなった。もう昼食の時間なので、みんな早々と片付けてわいわいと教室を出ていく。ここの学校は食堂で給食制度だから食いっぱぐれることはないのだけど、良い席はすぐに埋まってしまうためみんな急いで向かう。
対して私は人並みが落ち着いてからゆっくり食べたい派なので、少し時間を潰してから食堂に行くことにしている。ただし誘われれば、もちろん誘ってくれた子と一緒に早めに食堂に行くけども。
今日は誰かと一緒に食べる約束をしていないのでだらだらと教科書類をまとめていると、教材類を片付け終わったらしいマクナイト先生が近づいてきた。この部屋を施錠するから早く出るように言われるだろうかと慌てて教科書を持って立ち上がったところで、先生が近くに来ていた。




