第8話カメラの前で風化するモンスター
「はいどーも! 今、中層の第15エリア、『猛毒の大蜘蛛』の部屋の前に来てまーす!」
シンの配信は、俺という「無謀な素人」が加わったことで、同接数が5万人を突破していた。
暗くジメジメした洞窟の奥。巨大な蜘蛛の巣が張り巡らされた不気味な空間だ。
「おいお兄さん、本当にあそこに入るわけ? 命の保証はないよ?」
シンがカメラをこちらに向けながら、挑発的に笑う。
「問題ない。あんたはそこで、カメラだけ回してろ」
「あそ。じゃあ、無残に食われるところを生中継してあげるよ」
俺はポケットに両手を突っ込んだまま、蜘蛛の巣の奥へと歩みを進めた。
キシャアアアアアアアン!
天井から、馬車ほどもある巨大な黒蜘蛛が降臨した。
八本の禍々しい脚。口元からは緑色の猛毒が滴り、アスファルトのような岩盤をドロドロに溶かしていく。
「うわっ、出た! こいつの毒はプロでも即死級! おい、お兄さ――」
シンの声が恐怖で引き攣る。
だが、俺は歩みを止めない。武器すら抜かない。
大蜘蛛は獲物が自ら近づいてきたと判断し、鋭い前脚を鎌のように振り下ろしてきた。
シュバッ、と空気を切り裂く音。
「危ない……!」
シンの叫び。しかし、俺は避けない。
振り下ろされた巨大な前脚を、左手でひょいと受け止めた。
――『時間搾取』。最大出力。
「キシャ……!?」
大蜘蛛の動きが、完全に止まった。
直後、生配信の画面の向こうにいる5万人の視聴者は、あり得ない光景を目にすることになる。
大蜘蛛の漆黒の甲殻が、一瞬で茶褐色に変色し、ボロボロと剥がれ落ちていく。
瑞々しかった肉体が、数秒で干からびていく。
数百年、数千年という時間が、大蜘蛛の身体の中で爆発的に経過していた。
「おい……嘘だろ……」
シンの自撮り棒が、ガタガタと震え出す。
大蜘蛛は悲鳴をあげることすら許されず、ただの「古い砂の塊」へと変わり、洞窟を吹き抜ける風にさらわれて、サラサラと消滅した。
後に残ったのは、巨大な魔石だけ。
俺はそれを拾い上げ、カバンに放り込んだ。
「終わりだ。次、行くか?」
ポケットに手を戻し、振り返る。カメラの向こうのコメント欄は、あまりの衝撃に、完全にフリーズしていた。
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