第30話 今日も世界は、俺の気分で回っている
平日の昼下がり。
東京・表参道にある、格式高い高級オープンカフェ。
心地よい木漏れ日が、白を基調としたテラス席を柔らかく照らしていた。
俺はラフな私服姿で、特等席のソファに深く腰掛け、1杯数千円もする淹れたての高級ブルーマウンテンコーヒーを口に運んでいた。
ふと周囲の席に目をやると、一般人に変装した岩崎財閥の超一流Sランク冒険者たちが、さりげなく配置されている。
「佐藤社長、お味はいかがでしょうか? もしお気に召さなければ、今すぐ世界最高のバリスタをここに呼び寄せますが」
少し離れた席から、一般市民のフリをした護衛のリーダーが、緊張した面持ちでインカム越しに話しかけてきた。
「いや、これでいい。美味いよ。それより、お前たちも少しは肩の力を抜け。周りの客が怪しんでるぞ」
「は、はは……! 滅相もございません! あなた様は世界を救った神。万が一のことがあっては、我が岩崎財閥が世界中から指弾されますので!」
俺自身が世界最強なので護衛など1ミリも不要なのだが、彼らが「どうしてもお傍で盾にさせてください」と泣きつくので、好きにさせていた。
スマホの通知がなる。ずっと楽しみにしていた映画がついに解禁されたらしい。
かつては、この時間帯は地獄だった。
満員電車に詰め込まれ、理不尽な仕様変更に頭を抱え、上司の罵倒に怯えながら、泥のような缶コーヒーを胃に流し込んでいた。
あの擦り切れて絶望に満ちていた社畜の日々が、今ではまるで前世の出来事のように遠い。
今の俺には、使い切れないほどの数千億円の個人資産がある。
世界中の国家元首や超大国のトップたちが、俺の機嫌を損ねないように、毎日必死になって世界を平和に保とうと頭を下げている。
そして何より、俺の体内には十万年を超える、無限に近い『寿命』がストックされていた。老いることもなければ、病に倒れることもない。
「佐藤社長、お待たせいたしました。次回の超リッチな夏期特別バカンスの計画書をお持ちいたしました」
新オーナーとして優雅に任せている会社の新しい役員たちが、最高級の革製ファイルを両手で捧げ持ち、嬉しそうにカフェのテラスにやってきた。
「お疲れ。バカンスの場所、どこにしたんだ?」
「はい! 地中海にある、手つかずの自然が残るプライベートアイランドを丸ごと一つ買い取りました! 誠社長が誰もいない静かな場所を好まれるとのことでしたので、島の全住民には数億円の立ち退き料を支払い、完全に貸切状態にしてございます!」
役員の男は、これ以上ないほどの満面の笑みで報告してくる。
「いいじゃん、分かってるね。誰もいない島で、一日中スマホをいじってダラダラする。最高だ」
「気に入っていただけて光栄です! すぐに専属の最高級シェフのチームと、個人専用のプライベートジェットの最終セッティングを行います!」
役員たちはペコペコと嬉しそうに何度も頭を下げ、次の準備へと戻っていった。
かつて自分をゴミのように使い捨てにしようとした冷酷な現代社会は、今や俺にとって、最高に都合が良くて、どこまでも居心地のいい「最高の遊び場」に変わっていた。
誰にも縛られない。誰の顔色も窺わない。自分の手に入れた絶対的な力と時間で、周囲の人間を従えながら、自由気ままに生きていく。
「さて……バカンスの予定も決まったことだし…」
俺はニヤリと不敵に笑い、お気に入りのコーヒーをもう一口含むと、スマホの画面に視線を戻した。
世界一の富、絶対的な権力、そして神をも超える寿命。そのすべてを完全に掌握した元社畜の、終わらない最高の現代無双ライフは、今日も俺の気分次第で、どこまでも優雅に、ハッピーに続いていくのだった。
読んでいただきありがとうございます!
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それではまた別の作品でお会いしましょう!




