第29話新世界の創造主
深夜二時。
俺は一人で、東京都内を一望できる自社ビルの屋上ヘリポートに立っていた。
夜風が高級なスーツの裾を激しく揺らす。しかし、俺の身体を包む見えない『時間の防壁』が、その冷気を完全にシャットアウトしていた。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返った東京の街。
俺はゆっくりと目を閉じ、意識の感覚を、自分の身体から『世界全体』へと拡大させていった。
バリバリバリ……!
空間が、ガラスの割れるような不気味な音を立てて震え出す。
驚くべきことに、俺の脳内には、地球上のすべてのダンジョンの位置、すべての物質の劣化速度、そしてこの惑星に流れる『時間の川』の源流そのものが、一本の輝く糸となってハッキリと見えていた。
あの深淵のラスボス『終焉の巨神』の核を完全に体内に取り込んだことで、俺のチート能力は、個人の寿命を吸い取るという次元を遥かに超越していたのだ。
「なるほどな……。この世界の時間は、俺の指先一つで、どうにでも書き換えられるわけか」
俺は暗い夜空に向かって右手を掲げ、そっと人差し指を動かした。
――『世界時間管理』。
ピキィィィィィン……!
その瞬間、地球全体の時間の流れが、俺の意思と完全に同調した。
脳内に流れ込む、無数の「時間の歯車」の音。俺はその歯車を、自分の都合の良いように、ゆっくりと、だが確実に組み替えていく。
「まず、日本国内のすべてのダンジョンの発生速度と、中の魔物の繁殖速度を『百分の一』に低下させる。これで、一般市民が脅かされることは二度とない」
頭の中で、日本のダンジョンに繋がる歯車がガチリと固定される。
それだけではない。俺はさらに、自分に忠誠を誓う善良な国家や、岩崎財閥のような協力者のエリアに意識を向けた。
「次に、俺の息がかかった企業の農業エリア、および科学研究所の『時間』だけを、局所的に一万倍に加速する。農作物は一瞬で実り、最先端の技術研究は数日、いや数時間で数百年分の進歩を遂げる」
世界中の科学者たちが「奇跡だ!」と腰を抜かす光景が、目に浮かぶようだった。
法律、軍事力、お金、国家の枠組み。そんな現代社会が何千年もかけて作り上げてきたちっぽけなシステムを、俺は今、完全に上書きしたのだ。
名実ともに、この地球の『新世界の創造主(神)』となった瞬間だった。
「これで、本当の意味で誰も俺に逆らえなくなったな。国も、ギルドも、世界も、俺の作った新しいルールの中で、ただ踊るだけの操り人形だ」
ゆっくりと手を下ろすと、脳内の鳴動がピタリと収まった。
ステータスを確認するまでもない。俺の体内には、十万年を超える無限の寿命がプールされている。老いることもなければ、死ぬこともない。この不老不死の絶対的な権力を手にした俺は、永遠にこの世界を見下ろしながら、自由気ままに生き続ける権利を得たのだ。
「さて……神様の仕事はこれくらいにして、明日の休日の予定でも考えるか」
俺はニヤリと冷酷に笑い、屋上を後にした。重苦しい社畜の鎖を完全にぶち壊し、世界の理そのものを書き換えた男の、本当の優雅な日常が、ここから幕を開けようとしていた。
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