第26話世界を救った男の、優雅な休日
「さ、佐藤誠様……! あなたは、本当に世界を救ってくださった……!」
静まり返る新宿駅前。剣聖アーサーが、涙を流しながら俺の前に跪いた。
周囲にいたSランク冒険者たちも、全員が満身創痍の体を引きずりながら、俺に向かって深く頭を下げ、惜しみない賛辞と拍手を送ってくる。
さらに、ヘリコプターから生中継を続けていたメディアのカメラが、俺の姿を大写しにしていた。
今や全世界の何十億という人類が、画面の前で「救世主・佐藤誠」の名を叫び、熱狂している。
『佐藤誠! 世界最強の英雄だ!』
『日本の元社畜が世界を救ったぞおおお!』
『彼にノーベル賞を! いや、世界の王にするべきだ!』
ネット上は、俺への感謝と崇拝のコメントでサーバーが落ちるほどの大騒ぎになっていた。
だが、当の俺は、高級スーツに付いた砂をパンパンと払い、ひどく面倒くさそうな顔をしていた。
「おい、アーサー。総理に伝えとけ。約束通り、ラスボスは片付けたってな」
「は、はい! 宮治総理も、今頃嬉し泣きしているはずです! すぐに国家最高の凱旋パレードの準備を――」
「そんなの要らない。人が集まるところは嫌いなんだ」
俺はポケットに手を戻し、周囲の空間に意識を向けた。
これだけ注目されては、家に帰るだけでも一苦労だ。サインを求められたり、インタビューをされたりするのは、ただの『時間の無駄』でしかない。
「じゃあな。俺はこれから、優雅な休日を楽しむから」
――『時間停止』。世界全体、一時停止。
ピキィィィィィン……。
世界の音が、完全に止まった。
アーサーの感極まった表情も、パチパチと鳴り響いていた拍手の手の動きも、上空の報道ヘリのプロペラの回転すらも、完全にその場でフリーズした。
静寂。何物にも邪魔されない、俺だけの空間。
俺は停止した世界の中を、優雅に歩き出した。
誰も動かない街を抜け、自分が新しく購入した超高級タワーマンションへと戻る。
お気に入りのソファに腰掛け、テレビをつけ、淹れたての高級コーヒーを口に運ぶ。
そして、自分のスマホの画面を見た。
『預金残高:50,000,000,000円』
『残り寿命:100,795年』
「ふぅ……。やっぱり、誰もいない部屋で飲むコーヒーが一番美味いな」
パチン、と指を鳴らして、世界の時間停止を解除する。
外では再び、世界中が俺を称える大歓声が遠くで響き始めた。だが、俺はそれを完全に無視して、なろう小説の続きを読み始めた。
世界一の富、絶対的な権力、そして神をも超える寿命。そのすべてを手に入れた俺の、本当の気まぐれな無双ライフは、ここから始まるのだ。
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