第25話概念の腐食
「バ、バカな……。あの巨神の超再生が、完全に押し負けている……!」
剣聖アーサーが、地べたに這いつくばったまま、呆然と空を見上げて呟く。
新宿の上空。
ビルほどもある終焉の巨神の巨体は、すでに下半身の半分以上がボロボロの赤黒い砂へと変わり、ボロリ、ボロリと崩れ落ちていた。
怪物は必死に周囲の闇の魔力を集め、肉体を維持しようともがいている。だが、その魔力という「エネルギー」すらも、俺の時間進行の前には無力だった。
「無駄だ。お前の集めているその魔力だって、物質である以上、数万年放置すれば霧散して消えるんだよ」
俺は巨神の胸のコアへと、じわじわと近づいていく。
巨神は最後の抵抗とばかりに、自身の「存在の概念」そのものを爆発させ、周囲の空間ごと俺を消滅させようとした。世界の理をねじ曲げる、深淵の絶技だ。
「これならどうだ! 空間ごと、お前の存在を無に帰してやる!」
漆黒の光が俺を包み込む。
後方の冒険者たちが「佐藤さん!」と悲鳴を上げた。避難シェルターの生中継を見ていた何億人もの人々が、息を呑んで画面を凝視する。
だが、光の中から、俺の声が静かに、そして冷酷に響いた。
「概念の攻撃? だから何だよ。その『概念』が生まれてから消えるまでの時間、全部今ここで進めてやるよ」
――『時間搾取』。最大解放。
キィィィィィン……!
空間を揺るがしていた漆黒の光が、突如として輝きを失い、古いセピア色の写真のように色褪せていった。
概念という形のないエネルギーすらも、無限に近い時間を経過させられれば、その意味を失って虚無へと腐食していく。
俺の右手は、ついに巨神の胸の奥にある、邪悪に輝く『深淵の核』へと届いた。
「あ、あ、ああ……。私は、深淵の神だぞ……。人類ごときに、時間が、私の時間が……!」
「神様だか何だか知らないが、俺の日常の邪魔をしたのが運の尽きだ。お前のその膨大な寿命、全部俺の『貯金』にさせてもらうぞ」
ガシッ、と核を握りつぶす。
次の瞬間、世界が目眩を起こすほどの凄まじいエネルギーが、俺の体内へと逆流してきた。
【対象の『時間(寿命)』を十万年搾取しました】
【現在の残り寿命:100,795年】
【世界滅亡の深淵ダンジョン、完全消滅を確認しました】
「ギャあああああああああああ!」
巨神は断末魔の叫びを上げ、その巨体ごとサラサラと、ただの巨大な砂の山へと変わって新宿の街に崩れ落ちた。
上空の漆黒の渦が、まるで嘘だったかのようにフッと消え去り、東京の空に、綺麗な星空が戻ってくる。
世界を滅ぼすはずだった大災厄は、俺のチート能力の前に、ものの数分で「お掃除」されて終わったのだ。
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