第23話「ちょっと時間を止めにきた」
「グルルルルル……!」
終焉の巨神は、目の前に現れた小さな羽虫(俺)を、鬱陶しそうに踏み潰そうと、巨大な足を猛烈な速度で振り下ろしてきた。
ビルが丸ごと降ってくるような、圧倒的な質量と暴力の嵐。
周囲のSランク冒険者たちが「避けろぉ!」と絶望の悲鳴をあげる。
だが、俺はポケットから手を抜き、ただ頭上に向かって、右手の指をパチンと軽く鳴らした。
――『時間停止』。対象、俺の頭上半径5メートル。
ピキィィィィィン……!
世界の全ての音が、一瞬で消失した。
俺の頭上、わずか数センチのところで、巨神の巨大な足がピタッと完全に静止した。
風の動きも、飛び散る火花も、燃え盛る炎の揺らめきすらも、その空間だけ完全に凍りついたようにロックされている。
「な……に……?」
剣聖アーサーが、信じられないものを見る目で顎をがくがくと震わせた。
巨神もまた、自分の足がなぜか地面に届かないことに、困惑したように不気味な目を激しく明滅させている。
「邪魔だから、ちょっと下がっててくれないか?」
俺は巨神の足に向かって、軽くデコピンを放った。
ただのデコピンではない。指先が触れた瞬間、その部分だけ『時間加速』を最大出力で叩き込む。
ボロリ、バキバキバキ!
巨神の、どんな大魔法も通じなかった無敵の漆黒の甲殻が、俺の指先が触れた場所から一瞬で茶褐色に変色し、チョークのように脆く崩れ去った。数万年という経年劣化が、一瞬で巨神の足を襲ったのだ。
「ギ、ギャあああああああああああ!?」
巨神が、生まれて初めて受ける「時間という絶対的な暴力」に、天地を震わせるような大悲鳴を上げて後ろへ大きくよろめいた。
「す、凄い……。あの怪物の無敵の防壁を、触れただけで破壊した……!?」
絶望していたSランクの冒険者たちが、一斉に歓声を上げる。避難シェルターの生中継を見ていた全世界の何億人もの人々が、画面の前で信じられない奇跡に狂喜乱舞していた。
「おい、剣聖。お前たちの出番はもう終わりだ。世界ランク1位だか何だか知らないが、大人の戦いはここからだからな。お前たちはそこで、指をくわえて俺の無双を見てろ」
俺は高級スーツの襟を正し、ゆっくりと巨神に向かって歩き出す。
「キ、キシャあああああ!」
巨神は恐怖をかき消すように、その周囲の黒い邪悪なオーラを限界まで膨らませ、無数の触手のように俺に向かって放ってきた。触れたものの存在を消滅させる、深淵の概念攻撃だ。
「無駄だって。時間の前には、お前の深淵なんて、ただの浅瀬だからな」
俺は迫り来る黒いオーラに向かって、両手を大きく広げた。
いよいよ、この世界を滅ぼすラスボスを、文字通り「お掃除」する時間が始まったのだ。
「さあ、はじめようか。」
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