第20話不老の価値、世界の命運
「佐藤先生、どうか、どうか私の願いを聞き届けてください……!」
俺が新しく購入した、都内の超高級タワーマンションの最上階ゲストルーム。
そこには、普段ならテレビのニュースでしか見ることのない、世界的な大富豪や、海外の高名な貴族、果ては中東の石油王たちが、プライドを完全に投げ捨てて床に土下座していた。
部屋の隅には、彼らが持ち込んできた、見たこともないほどの金の延べ棒や、歴史的な国宝級の宝石、そして数十兆円の数字が書かれた小切手が山積みにされている。
「お前たち、うるさいぞ。俺は今、読書中なんだ」
俺はソファに寝そべり、スマホ片手に、冷淡に言い放った。
「申し訳ございません! しかし、私の余命はあと一ヶ月なのです! あなた様の『時間を戻す力』があれば、私をまた若返らせることができると聞きました! 資産の半分、いや、すべてを差し上げます! どうか私に『1年』の寿命を!」
中東の石油王が、額を床に何度も擦り付けながら必死に懇願する。
「佐藤先生、我が国が所有するレアメタルの利権をすべてあなた個人に譲渡します! ですから、私の病を……!」
ヨーロッパの老貴族も、涙を流しながら縋り付いてくる。
現代社会において、金や権力は何でも手に入れられる万能の道具だった。しかし、そんな彼らでも、唯一『老い』と『死』だけは克服できなかった。
それが今、俺という存在によって、金で寿命が買える時代になってしまったわけだ。
「勘違いするなよ。俺は慈善事業をやってるわけじゃない。お前たちのその汚い金や利権なんて、俺にとってはただの数字だ。俺が欲しいのは、俺の日常を邪魔しない『従順な犬』だけだ」
俺が冷たい視線を向けると、世界を動かす大富豪たちが、一斉に首を激しく縦に振った。
「もちろんです! あなた様の忠実な僕となります!」
「我が財閥のすべてを、あなた様の手足としてお使いください!」
最高にスカッとする光景だった。
かつて時給数百円のために上司にペコペコ頭を下げていた俺が、今や数兆円を持つ世界の支配者たちを、顎でこき使っている。
「いいだろう。岩崎さんの紹介もあるしな。今日のところは、そこの三人だけ『3年分』若返らせてやる。残りの奴らは、俺の会社のトイレ掃除でも手伝ってから出直せ」
「感謝いたします……! 感謝いたします!」
選ばれた大富豪たちが歓喜の涙を流し、選ばれなかった者たちが絶望の声を上げる。
世界一の富と、絶対的な権力を、俺は完全に掌握した。現代社会のルールは、俺を中心に回っていると言っても過言ではなかった。
だが、そんな俺の贅沢で優雅な日常を引き裂くように、東京の上空の空間が、バリバリと不気味な音を立てて裂け始めようとしていた。
ついに、総理が言っていた世界滅亡の『深淵ダンジョン』が、その姿を現そうとしていたのだ。
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