第19話世界が驚愕した沈黙
アメリカ・ワシントンD.K.にある、巨大軍事企業『クロノス・インダストリーズ』の最高作戦本部。
巨大なモニターを囲むように、軍の最高幹部や、企業のCEO、そして冷酷なエリート科学者たちがずらりと並んでいた。彼らの顔は、一様に血の気が引き、まるで死人のように真っ白に染まっている。
モニターに映し出されていたのは、東京湾の埠頭に設置された軍事衛星からの超高精度赤外線カメラの映像。そして、生還した三人の隊員が持ち帰った、無惨な戦闘記録のデータだった。
「信じられん……。我が社の総力を挙げた『対魔導バリア』が、1秒も持たずに突破されたというのか……!」
CEOの男が、デスクを激しく叩いて怒鳴り散らす。
「魔法ではないのです、CEO。あれは……エネルギーや物質そのものの『時間』を強制的に進める、文字通りのバグです。超高出力レーザーすら、数万年分の時間を経過させられ、熱量を失って虚無へと還されました。我々の科学力では、あの男の爪一枚すら傷つけることは不可能です」
科学者のトップが、ガタガタと震える手で眼鏡を直しながら、絶望的な報告を口にした。
「大統領への報告はどうする。日本が、いや、佐藤誠という個人の男が、世界最先端の軍事力を『ただのゴミ』に変えたのだぞ。これは安全保障上の最大の危機だ」
軍の将軍が、重苦しい声を響かせる。
「敵対は不可能です。もし彼が本気でその気になれば、我が国の最新鋭のステルス戦闘機も、核ミサイルも、すべて着弾する前にサビついた鉄くずに変えられる。……いや、それどころか、我々全人類の寿命が、彼の気分一つで一瞬にして吸い尽くされる可能性がある」
部屋を支配したのは、圧倒的な『沈黙』だった。
かつて世界を裏から操り、どんな国家もテクノロジーと武力でねじ伏せてきた超大国のエリートたちが、今や極東の地にいる一人の「元社畜」の存在に、心底恐怖して震えている。
「……すぐに日本政府へ連絡を入れろ」
CEOが、掠れた声でようやく指示を出した。
「降伏……いや、和解の申し入れだ。我が社が持つすべての利権と技術を差し出しても構わん。絶対に、あの男を怒らせるな。佐藤誠の機嫌を損ねることは、アメリカという国家の終わりを意味する」
同じ頃、この映像はアメリカだけでなく、中国、ロシア、ヨーロッパの最高首脳陣の間でも極秘裏に共有されていた。
そして世界中のトップたちが、全く同じ結論に達していた。
『佐藤誠には、絶対に逆らうな』
世界のパワーバランスが、一人の男の気まぐれによって、完全に再構築された瞬間だった。
当の俺は、そんな世界の動揺などどこ吹く風で、自宅のリビングで高級なアイスクリームを食べていたのだが。
呼んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!




