第18話100年の老衰
「ひ、ひぃっ……! 離せ! 離してくれ!」
東京湾のコンテナ埠頭。超振動ブレードを真っ二つに折られ、左手で胸ぐらを掴まれた女性隊員が、狂ったように悲鳴を上げた。
彼女の身体を構成していた最新鋭のナノ強化スーツが、俺の手が触れた場所からパチパチと火花を散らしてショートしていく。
右手で掴んでいる巨漢のリーダーも、すでに右腕全体が完全に赤黒いサビの塊と化し、重さに耐えかねてボロリと地面に崩れ落ちていた。
「科学の粋を集めた人間兵器が、随分と情けない声を出すじゃないか。……おい、さっき俺のことを何て言った? イエロー・モンキーだったか?」
「あ、ア、アイム・ソーリー! 悪かった、私が間違っていた! だからそれ以上、その奇妙な力を――」
「謝っても時間は戻らない。……いや、俺の場合は『進む』んだがな」
俺は両手に意識を集中させ、搾取の回路を同時に開いた。
――『時間搾取』。出力5%。
「ギャあああああああああああ!?」
「ウ、ア、アアアアアアアッ!?」
二人の絶叫が、深夜の埠頭に重なって木霊する。
生身のパーツが残されていた彼らの首筋や顔の皮膚が、見る見るうちに水分を失ってカサカサの土色に変色していく。
艶のあった金髪は一瞬でパサついた白髪へと変わり、目元や口元に深い老衰のシワが刻まれていく。
サイボーグ化されていない、彼らの脳や内臓、そして細胞そのものの『時間』が、凄まじい速度で吸い尽くされていく。
ちょうど、100年分。
【対象二名から『時間(寿命)』を計200年搾取しました】
【現在の残り寿命:995年】
俺が両手を離すと、二人はヨボヨボの老人の姿となり、機械のパーツの重さに耐えきれずにドサリと地面へ崩れ落ちた。
ゼェゼェと枯れた息を吐きながら、自分のシワだらけの手を見つめて絶望に涙を流している。
「リーダー……!? エマ……!? ば、バカな、100歳以上の老人に……!?」
「化け物……! 悪魔だ……!」
後方に残っていた三人のサイボーグ暗殺者たちが、完全に腰を抜かして後ろへ飛び退いた。彼らは数々の戦場を生き抜いてきた冷酷なプロだ。だが、仲間が一瞬で100歳老け込まされ、最新の機械がサビて朽ち果てる光景など、想像の範疇を超えていた。
「おい、残りの三人。まだやるか? あんたたちのその自慢の機械、全部サビつかせて、歯を全部老化で抜け落ちさせてやろうか?」
俺はポケットに手を戻し、冷たい笑みを浮かべながら一歩前に踏み出した。
「ひ、ひっ……! 撤退! 撤退だ!」
「動けないリーダーたちを置いていけ! 早くしろ!」
三人は武器を放り出し、ヨボヨボになった仲間二人を地面に引きずりながら、命からがら潜水艇へと逃げ帰っていった。
バシャーンと大きな音を立てて、闇の中へ消えていく潜水艇。
俺はそれを追うことすらせず、自分の手のひらを見つめた。残り寿命はもうすぐ1000年。世界の頂点が見えてきた気がした。
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