第17話最先端の科学技術vs時間
ガキィィィィィン! と火花が散るような激しい音が埠頭に響き渡った。
サイボーグのリーダーの、時速200キロを超える鉄拳。それを、俺は右手の手のひらだけで、完璧に受け止めていた。
「なっ……!? 生身の手で、私の出力を受け止めた……だと!?」
リーダーの赤く輝く義眼が、驚愕で激しく明滅する。
「言っただろ、玩具だって。あんたたちの科学がどれだけ進歩してようが、俺にとっては『ただの物質』なんだよ」
俺はニヤリと笑い、掴んだ鉄の拳に意識を向けた。
――『時間進行』。対象、この男のサイバーボディ。速度、一万倍。
ビキ、ピキピキピキ……!
「な、何だ!? 右腕のコントロールが効かない! エラー、エラー! ナノマシンが急速に機能停止している!?」
リーダーの腕から、不気味な警告音が鳴り響く。
彼の腕を構成していた最先端の超チタン合金が、俺の手が触れた場所からみるみるうちに赤黒くサビつき、表面がボロボロと剥がれ落ち始めた。
どんなに頑丈な合金だろうが、ナノマシンだろうが、物質である以上『経年劣化』からは逃れられない。
数百年、数千年という時間が、リーダーの右腕の中で一瞬にして経過していく。
内部の精密回路は一瞬で焼き切れ、最高出力のバリア発生装置はサビてショートし、ポンコツの鉄くずへと変わっていく。
「バ、バカな! 我が社の誇る対魔導バリアが、一瞬で突破された!? これ、は……魔法じゃない! 概念そのものの進行か!?」
リーダーが恐怖に顔を歪め、腕を引き抜こうともがく。だが、サビついた関節はギチギチと悲鳴をあげるだけで、1ミリも動かない。
「おい、他の奴ら! 何を見ている! 撃て! この男をバラバラにしろ!」
リーダーの悲鳴のような怒号を受け、残りの四人のサイボーグが一斉に動いた。
「目標をロックオン! 超高出力レーザー、照射!」
背後から、二人の隊員が肩口のレーザー砲から、鉄をも一瞬で蒸発させる熱線を放った。青白い二条の光線が、俺の背中に向かって音速で殺到する。
「後ろがガラ空きだよ!」
さらに、超振動ブレードを持った女が、俺の首を刎ねようと横一文字に刃を振るう。
回避不可能の同時波状攻撃。
科学の粋を集めた絶対的な暴力が、俺を完全に包み込んだ。
「無駄だって言ってるのに、本当に学習しないな」
俺はリーダーを掴んだまま、自分の背後の空間に向けて、ほんの少し『時間の歪み』を展開した。
放たれた青白いレーザー光線が、俺の背後1メートルの空間に突入した、その瞬間。
光線が、不自然に歪み、そのまま光の粒子となってフッと霧のように霧散した。光というエネルギーすらも、無限に近い時間を経過させられれば、その熱量を失って虚無へと還るのだ。
「は……? レーザーが、消えた……?」
首を狙って超振動ブレードを叩き込んできた女も、驚愕の声を上げた。
彼女の持つ最新鋭のブレードは、俺の首筋に触れる直前で、刃の振動が完全にストップし、それどころか刀身が数百年放置された包丁のように赤くサビつき、パキィンと軽い音を立てて真っ二つに折れ曲がった。
「科学の進歩には、何百年、何万年という『時間』が必要なんだろ? だったら、その時間を今ここで、全部終わらせてやるよ」
俺は折れた剣を持って呆然とする女の胸ぐらを、空いた左手でガシッと掴み取った。
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