第2話100年の重みをしれ
体の芯から湧き上がる全能感。
これが、奪った寿命の力なのか。
さっきまでの疲労が、嘘のように消え去っている。
「残り寿命、185年……」
脳内に残るアナウンスの音を反芻する。
普通の人間なら長くても100年。それを遥かに超越した時間を、俺は今、この身に宿している。
足元に転がる紫色の魔石を拾い上げる。ずっしりと重い。
これを地上のギルドに持ち込めば、それだけで数十万、いや数百万になる価値があるはずだ。
だが、余韻に浸る時間はなかった。
ドス、ドス、ドス。
さらに重い足音が、洞窟の奥から響いてくる。
一体だけじゃない。
暗闇から現れたのは、先ほどの狼をさらに一回り大きくした、群れの『ボス』とおぼしき個体だった。
背中の毛並みは針のように尖り、その戦闘力は素人目に見ても絶望等。
本来なら、プロの冒険者がパーティを組んで、重装備で挑むレベルの化け物だ。
「……ハッ」
なのに、不思議と恐怖がなかった。
むしろ、体の奥がジリジリと熱い。試してみたい、という衝動が勝つ。
グルアアアアア!
ボス狼が咆哮し、突進してくる。突風が頬を打つ。
まともに喰らえば肉塊だ。
俺は一歩も引かず、ただ右手を前に突き出した。
タイミングを合わせる必要すらない。向こうから勝手に、俺の手に飛び込んできた。
ガブ、と俺の右腕が狼の巨大な顎に挟まれる。
「しまっ――」
と思ったが、痛みが来ない。
牙が皮膚に触れた瞬間から、すでに『搾取』は始まっていた。
ビキビキビキ!
「ガル……ッ!?」
ボスの鋭い牙が、俺の腕に食い込む前に、ボロボロとチョークのように崩れていく。
怪物の目に見る見るうちに恐怖が混じる。逃げようともがくが、俺の手は怪物の肉を掴んで離さない。
吸い取れる。無限に。
怪物の圧倒的な巨体が、みるみるうちに縮んでいく。
筋肉が頽廃し、骨が脆くなり、最後は悲鳴をあげる暇もなく、一瞬で「一塊の塵」へと変わった。
【対象の『時間(寿命)』を600年搾取しました】
【現在の残り寿命:785年】
【レベルが上昇しました。筋力・敏捷が大幅に強化されます】
凄まじいエネルギーの逆流。
頭のてっぺんまで突き抜けるような快感に、思わず声が出そうになる。
たった二背の怪物を触っただけで、俺は700年以上の寿命を手に入れた。
このダンジョンは、他人にとっては地獄だろうが、俺にとっては「命の自販機」みたいなものだ。
ふと見ると、ボスの消え去った場所には、先ほどのものより3倍は大きい、深紫色の巨大な魔石が輝いていた。
「これ、いくらになるんだ?」
社畜として、1円を稼ぐ大変さは誰よりも知っている。
手の中の魔石は、俺の月収の何年分だろう。
バカバカしくなった。あんな暗いオフィスで、上司の顔色を窺って、自分の命をすり減らしていた日々が。
「もう、あそこに戻る必要はないな」
出口を探して、俺は歩き出す。
背後で、崩落したダンジョンの入り口から、地上の朝の光が微かに差し込み始めていた。
まずは、この力を試すために、あの場所へ行かなければならない。
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