第12話幹部の寿命を、10年だけ貰う
「ひっ、あ、悪魔め……! くるな、来るなぁ!」
ギルドの地下駐車場。私設武装部隊のリーダーは、腰を抜かしてコンクリートの床を這いずり回っていた。
彼の自慢のアサルトライフルは、俺が触れた瞬間に赤黒いサビの塊と化し、ボロリと床に砕け散っている。周囲にいた他の暗殺者たちも、全員が武器を風化させられ、戦意を完全に喪失してへたり込んでいた。
俺は一歩、また一歩と、リーダーの男に向かって歩を進める。暗闇の中、俺の足音だけが異常なほど大きく響いていた。
「黒岩に伝えろ。俺の家族や友人に手を出したら、次はお前の組織ごと、この世から消し去るとな」
「わ、分かった! 伝える! だから命だけは――」
「タダで帰せるとは思うなよ。仕事の対価だ。お前たちの『時間』を少し貰っていく」
俺はリーダーの胸ぐらをグッと掴み、意識の回路を開いた。
――『時間搾取』。出力を1%に微調整。
「ギャあああああああああああ!?」
駐車場に、引き裂かれるような絶叫がこだまする。
掴んだ手のひらから、男の生命力がじわじわと俺の体内へ流れ込んでくる。男のハリのあった肌が一瞬でカサカサに乾き、目元に深いシワが刻まれていく。艶やかだった黒髪は、みるみるうちに混じり気のある白髪へと変わっていった。
ほんの数秒。時間にして、ちょうど『10年分』。
【対象の『時間(寿命)』を10年搾取しました】
【現在の残り寿命:795年】
俺が手を離すと、男は老婆のようにゼェゼェと荒い息を吐きながら、自分の顔や手を触って絶望の声を上げた。
「お、俺の顔が……手が……シワだらけに……! 嘘だ、嘘だろぉ!」
「たった10年だ。命があるだけ感謝しろ。……おい、黒岩のところへ案内してもらうぞ。あいつの顔を直接見なきゃ、気が済まないんでね」
俺は怯える暗殺者たちを従え、再び最上階の幹部室へと引き返した。
バァン! と重厚な扉を蹴り開ける。
「黒岩さん。お前の送ったトカゲたち、全員サビつかせといたよ」
「なっ、佐藤……!? なぜお前がここに……!」
デスクで優雅にワインを飲んでいた黒岩が、総毛立った顔で立ち上がる。その後ろから、10歳老け込んでヨボヨボになった暗殺者のリーダーが這い入ってきた。
「り、理事……こいつは、こいつは本物のバケモノです……! 銃が、銃が効かない……!」
「何だと……?」
黒岩の顔から、一瞬で余裕が消え去り、真っ白に染まっていく。
俺はゆっくりと黒岩のデスクに近づき、その高級な大理石の天板にそっと右手を置いた。
ピキピキピキ……。
「ヒッ……!」
黒岩の目の前で、大理石がみるみるうちに風化し、ただの砂の山へと崩れ落ちていく。デスクの上にあったパソコンや重要書類も、数百年の時を経てボロボロの塵へと変わった。
「これで分かったろ。あんたの持ってるギルドの権力も、お金も、俺の前ではただの砂だ。次、俺の視界にその汚い顔を入れたら、お前の残りの寿命、全部その場で吸い尽くしてやるよ」
「あ、あ、ああ……」
黒岩は恐怖のあまり声も出せず、自分の豪華な椅子の後ろへとガタガタと震えながら崩れ落ちた。現代社会を裏で牛耳るギルドの幹部が、ただの元社畜に命乞いをするような目で這いつくばっている。
「じゃあな。二度と俺の前に現れるなよ」
俺は背を向け、部屋を出た。現代社会のルールが、完全に俺の手の中で作り変えられた瞬間だった。
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