第11話銃弾すらも、数百年先へ
ギルド本部の地下駐車場。
薄暗いコンクリートの空間に、俺の足音だけが静かに響いていた。
エレベーターを降りて自分の車へ向かう途中、ふっと背筋に冷たい気配が走る。
車の影、柱の裏。気配は一つや二つではない。
「動くな。手を頭の後ろに組んで跪け」
低い、訓練された声。
柱の陰から現れたのは、黒い戦闘服に身を包み、顔をバラクラバで隠した男たちだった。その数、およそ十人。
全員が、軍用のアサルトライフルやサブマシンガンを俺に真っ直ぐ向けている。ギルドが裏で囲っている、非合法の私設武装部隊。つまりは、暗殺者だ。
「黒岩の指示か。随分と仕事が早いな」
俺はポケットから手を出さず、ため息混じりに答えた。
「質問に答える必要はない。抵抗するなら、ここで蜂の巣にするだけだ。足を撃ち抜いてでも、五体満足で連れてこいと言われているんでな」
リーダー格の男が、容赦のない声を響かせる。
銃口の奥で、金属の弾丸が装填されている音がかすかに聞こえた。
現代の科学技術が凝縮された、最先端の兵器。人間の肉体など、一瞬でボロ雑巾のように引き裂く、圧倒的な暴力の象徴だ。
「撃て」
リーダーの短い合図。
次の瞬間、地下駐車場に鼓膜をツんざくような激しい銃声が炸裂した。
タタタタタタタタタン!
十挺の銃口から、一斉に無数の弾丸が吐き出される。火花が散り、硝煙の匂いが一気に立ち込めた。
普通の人間の視覚では、捉えることすら不可能な音速の金属塊。それが一斉に、俺の胸や足へと殺到する。
だが、俺の目には、その弾丸の軌跡が、まるでスローモーションのようにハッキリと見えていた。
俺は一歩も動かない。避ける動作すらしない。ただ、自分の周囲の『空間』に向けて、意識を集中させた。
――『時間進行』。範囲、半径1メートル。速度、最大。
キィィィィィン……!
俺の身体を中心にして、目に見えない時間の歪みが球体となって広がった。
そこへ、猛烈な速度で突っ込んできた鉛の弾丸たち。
弾丸が、俺の1メートル手前の空間に接触した、その瞬間。
ピキピキピキ……!
弾丸の表面が、一瞬で真っ赤なサビに覆われた。
音速で進んでいたはずの金属が、その空間に入った途端、数百年という時間を強制的に経過させられる。火薬の推進力は失われ、金属の強度は完全に崩壊した。
ボロボロ、サラサラ。
俺の目の前で、数百発の弾丸がただの「赤い鉄の砂」へと変わり、床へと虚しく崩れ落ちていく。
「な……!? 何が起きた!?」
「弾が……弾が消えたぞ!?」
暗殺者たちの間に、強烈な動揺と困惑が走る。彼らはプロだ。どんな異常な能力者とも戦ってきたはずだ。だが、放った銃弾が手前で砂になって落ちる光景など、世界のどの戦場でも見たことがない。
「おい、次は何だ? ドローンか? レーザーか? 何でも持ってこいよ。時間の前には、あんたたちの科学なんて、ただのゴミだからな」
俺はポケットから手を抜き、ゆっくりと男たちに向かって歩き出した。
「ば、化け物め! 撃て! 撃ち続けろ!」
リーダーが狂ったように叫び、再び引き金を引く。だが、何度撃っても同じだった。俺の手前で、すべての攻撃がサビつき、砂となって消え去るだけ。
「次は、こっちの番だ」
俺は一瞬で距離を詰め、目の前にいた暗殺者のアサルトライフルの銃身を、右手で優しく掴んだ。
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