第10話ギルドの利権と、脅迫
「おい、佐藤誠。座れよ。別に取って食おうというわけじゃない」
新宿にあるダンジョンギルド本部の最上階。一般の冒険者は立ち入ることすら許されない、全面ガラス張りの最高幹部室だ。
革張りの巨大なソファに深く腰掛け、傲慢に足を組んでいる男。ギルドの常任理事であり、利権を一手に握る男、黒岩。
その背後には、スーツを着た大柄なSPが二人が、微動だにせず俺を睨みつけていた。
俺は勧められたソファには座らず、ポケットに手を突っ込んだまま、冷ややかな視線を黒岩に向ける。
「用件を早く言ってくれ。俺は忙しいんだ。これでも新しく会社のオーナーになったばかりでね」
「フン、帝国システム開発を買収した件か。小金を持った素人が、随分と大きな買い物をしたもんだな」
黒岩は鼻で笑い、デスクの上のタブレットをこちらに向けた。
画面に映っているのは、昨日俺がシンという配信者のチャンネルで大バズりさせた、あの動画のスクショだ。
「本題に入ろう。お前が昨日、カメラの前で見せたあの『力』だ。あれは一体何だ? ギルドのデータベースにあるどのスキルとも合致しない。モンスターを一瞬で砂に変え、高級装備をボロボロのゴミに変えた。……あれは、時間の操作か?」
黒岩の目が、獲物を狙う蛇のように細くなる。
「だとしたら、あんたに何か関係あるのか?」
「大ありだ。いいか、佐藤。ダンジョンから得られる富や力は、すべて我がギルドの管理下に置かれるべきものだ。そんな規格外の危険な能力を、ただの一般人が個人的に所有していいはずがないだろう」
「管理、ね。要するに、俺の力を自分たちの利権に組み込みたいだけだろ。断る」
俺が即座に切り捨てると、部屋の空気が一瞬で凍りついた。
背後のSPがピクリと腰の警棒に手をかける。だが、黒岩はそれを手で制し、今度は低く、地を這うような声で笑い出した。
「ハハハ……若いな。自分がどれほど危険な綱渡りをしているか、分かっていないらしい。お前には、まだ田舎に老いた母親が健在だったな? それに、高校時代の数少ない友人たちの住所も、調べればすぐに分かる。ギルドの権力を使えば、彼らの日常を『事故』に見せかけて終わらせることなど、赤子の手をひねるより簡単なんだよ」
黒岩はデスクから1枚の契約書を取り出し、俺の前に放り投げた。
「ここにサインしろ。お前の能力の秘密をすべて開示し、今後は我がギルドの特属兵器として働くという契約だ。そうすれば、お前の家族の安全は保証してやる。悪い話じゃないだろう?」
卑劣な脅迫。現代社会の闇そのものだ。
昨日までの俺なら、恐怖で頭が真っ白になり、言われるがままにサインしていただろう。家族を人質に取られて、抗える術を持たなかった。
だが、今の俺は違う。
俺はゆっくりと契約書を拾い上げ、両手で綺麗に真っ二つに引き裂いた。
ビリビリ、と静かな部屋に紙の裂ける音が響く。
「な、何だと……?」
「黒岩さん。あんた、大きな勘違いをしてるよ」
俺は引き裂いた紙切れを黒岩の顔へ向かって放り投げた。
「俺を脅せると思わないことだ。俺がその気になれば、あんたの持っている地位も、名誉も、そしてその『命』すらも、一瞬で消し飛ばせるんだからな」
「貴様……! 自分が誰に口を利いているか分かっているのか! おい、連れ出せ!」
黒岩が激昂し、背後のSPに怒号を浴びせる。
二人の巨漢が同時に俺の肩を掴もうと迫ってきた。だが、俺は彼らが触れるよりも早く、踵を返して部屋の扉を開けた。
「忠告はしたぞ、黒岩。俺の周りに手を出してみろ。その時は、あんたの人生の時間を『ゼロ』にしてやる」
「待て! 逃がすな!」
背後の怒鳴り声を無視し、俺はエレベーターへと乗り込んだ。
黒岩の目は完全に本気だった。あの手の人間は、口で言っても聞かない。おそらく、このビルを出た瞬間に、次の『実力行使』が待っているはずだ。
だが、望むところだ。
現代社会の権力が、俺のチート能力にどこまで通用するのか、試してやる。
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