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からくりドッヂボール  作者: 水前寺鯉太郎
高校生編

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79/80

第79話 日蝕、血に染まる(前編)


 西暦三一〇一年。からくりドッヂボール全国大会・決勝。

 広島代表『エクリプス』が足を踏み入れたのは、全面に最新の電子基板が血管のように透ける、メタルコープ社製特製「ルビコン・コート」だった。

 観客席を埋め尽くすアッパーシティの富裕層。そして、貴賓席から冷徹な眼差しを向ける、この世界を支配するメタルコープの重役たち。

 彼らにとって、この試合は「管理された秩序タイタンズ」が「下層の不純なバグ(エクリプス)」を、一〇〇パーセントの確率で消去するための、洗練された公開処刑に過ぎなかった。

「……ハチ、そこで見てろ。……僕たちが、絶対にあいつを黙らせる。この錆びた街の匂いを、あいつらの鼻に焼き付けてやるんだ」

 ショウタがベンチで震えるハチを優しく撫でる。だが、その指先は、恐怖ではない――抑えきれない昂ぶりと、得体の知れない予感で微かに震えていた。

 ピーーーーーッ!!

 試合開始のホイッスルが、審判の意図すら介さず、システムの命令で冷酷に鳴り響いた。

 その瞬間、タイタンズの「完全無欠」な組織攻撃が、エクリプスの脆弱な繋ぎ目を狙って襲いかかった。

 彼らが最初に狙ったのは、エクリプスの精神的支柱であり、守備の要である東雲ゆなだった。

「……目障りなんだよ、その安っぽい鉄屑バットが。君たちの『暴力』は、もう古いんだ」

 九条太陽の微かな合図。タイタンズの四人が、ミリ単位の誤差もなく同時に**青球ブルーボール**を放つ。それらは空中の『スカイリング』を複雑なアルゴリズムで通過し、超高振動を伴う、あらゆる物質を分解する「破壊弾」へと変貌した。

 ゆなが決死の覚悟でキャッチに回るが、リングで増幅された破壊的な衝撃を殺しきれない。ゆなの体は木の葉のようにコートに叩きつけられ、激しい火花が散った。

【ゆな HP:105 →40 / 守備兵装:完全破壊。再起不能警告】

「……アタシの……バットが……っ。アタシの、道が……」

 呆然と立ち尽くすゆな。タイタンズは追い打ちをかけるように、さらに嘲笑うかのように球を叩き込む。

「……次は、その目障りな『解析役』の少女だ。……論理のない目に、光は不要だろう?」

 九条の、温度を失った死神のような声が響く。

 タイタンズは、エクリプスの中で最もHPが低く、肉体的に脆弱なリカと智を、一点に集中攻撃し始めた。**黄球イエローボール**が雨のように、逃げ場を完全に塞ぐグリッドとなって降り注ぐ。

「リカちゃん、伏せて!! 下がるんだ!!」

 ショウタが叫ぶが、**『フロアシフト(床移動)』**がリカの足元を嘲笑うように狂わせ、回避のバランスを奪った。炸裂した黄球の衝撃波が、リカの意識を、そして肉体の自由を奪う「強制スタン」へと追い込んだ。

「……あ、……身体が、動け、ない……」

【リカ:10秒間強制スタン発動 / ターゲットロックオン】

 そこへ、九条太陽がゆっくりと、死の宣告として**赤球レッドボール**を構えた。

 相手を倒すためではない。その心を、その尊厳を確実に「壊す」ための、ミリ単位の狙い。

「……やめろ、九条!!」

 丸山が『神速』の限界を超えて割って入ろうとするが、タイタンズの別のアタッカーが冷徹にその軌道を阻む。

 九条は赤球を指先で、まるで芸術品を愛でるように弄びながら、ショウタを、そして中継を注視する世界中のカメラを見つめて、歪に、残酷に笑った。

「さあ、血のショーを始めようじゃないか。……僕はね、汚い下層の泥水が混じった、無様で赤い血が見たいんだ。それが、バグが修正される瞬間の、唯一の色だからね」

 九条の全身の駆動装置が、咆哮のような唸りを上げ、赤球が不気味な、どす黒い熱を持ち始める。

「……絶望したまえ、遠藤ショウタ。……君たちが守ろうとしている不完全な命が、いかに容易く、無残に砕け散るか。……全力で来たまえ。……その方が、壊し甲斐があるというものだ」

 九条の腕が、最速の演算とともに振り抜かれた。

 狙いは、動けないリカの、その右膝――。

 ドォォォォォォォンッ!!

 スタジアムの空気を一変させる爆音。

 青白い電子回路が透けるコートに、温かく、鮮やかな紅が舞い散った。

 観客の悲鳴が、ドームの屋根を突き破るように、絶望とともに響き渡った。

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