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からくりドッヂボール  作者: 水前寺鯉太郎
高校生編

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73/80

第73話:群雄割拠

 ミドルシティ――その実体は、かつて広島と呼ばれた地の残骸、ロワー・スクラップの片隅。

 エクリプスの拠点である、潮風と油の匂いが染み付いた古い体育館の二階、監督室。

 薄暗い室内を、数枚の青白く発光するホログラムパネルが冷徹に照らし出していた。そこには、全国から集う「化け物」たちのデータが、無機質な数字の羅列となって、夜の蝶のように浮遊していた。

「……今年の全国は、例年以上に『バグ』が多いな。システムが、歪みを隠しきれなくなっている」

 黒瀬クロセ玄道が、低く、腹に響く重厚な声を漏らした。彼はデスクの影に深く腰掛け、鋭い指先でホログラムのリストをスワイプした。その瞳は、獲物の急所を瞬時に見抜く黒豹のように、暗く、冷たく、冴え渡っていた。

「そうですね。でも監督、この水戸商業のリストを見てくださいよ。潔すぎて、一周回って笑っちゃいます」

 三宅ミヤケひなたコーチが、横から身を乗り出して、特定のパネルを細い指で指差した。茨城代表、水戸商業。備考欄には、ただ一言、血のような文字で「全員貫通」と記されていた。

「控えを含めた全弾が、物理装甲を無視する防御不能の貫通属性。脳筋の極みですね。丸山くんやゆなちゃんが真っ向から受けたら、自慢の牙ごと一発で持っていかれますよ」

「ああ。だが、貫通弾は軌道が直線的になりやすい。リカの観察眼で、リリースのコンマ〇一秒前にコースを絞らせれば、回避は可能だ。……問題は、ここだろう」

 黒瀬がパネルを一つ、中央に固定した。神戸中央高校。

御影ミカゲ颯真。HP一四〇……鉄壁の盾か」

「ええ。超高密度のカウンターショットの持ち主。あの九条太陽と唯一、正面からやり合える男です。うちのサトシくんの狙撃でも、この壁を抜くのは一苦労ですよ」

 ひなたは言いながら、足元で「コゴー、コゴー」と幸福そうな寝息を立てているハチを優しく撫でた。黒パグの小さな体温と、かすかなイビキ。それが、殺伐とした戦略会議の空気に、わずかな「生身の救い」を添えていた。

「京都の嵐山、大阪の浪速工科、そして福岡の黒岩……。どいつもこいつも、システムの穴を突くような、尖りきった連中ばかりだ。だが――」

 黒瀬は、リストの一番下、隅に追いやられた自分たちのチーム名に視線を落とした。

 エクリプス(広島)。

「不完全な五人と、一匹。このノイズが、どこまで世界の『正解』を狂わせるか。……見ものだな」

「ふふ、ですね。基礎フォームの地獄の叩き込みは、私がやります。監督は、最高の『ハメ手』を考えておいてくださいね」

 ひなたが快活に笑った。その瞳が、一瞬だけ軍事教官のような冷徹な色を宿すのを、ショウタは見逃さなかった。

 窓の外、ミドルシティ広島の夜空には、アッパーシティの繁栄を誇示する人工の光が満ちていた。その光を完全に呑み込む「蝕」の準備は、着々と、そして静かに進んでいた。

 ホログラムが、最新の「からくりコート」を三次元で構築していく。青白い光に照らされた黒瀬監督の横顔に、ひなたコーチが感嘆の声を上げた。

「……監督、これを見てください。第四章。赤球レッドボールですよ。高校生大会でこれを使うなんて、協会は、あるいはメタルコープは、何を考えてるんだか」

「……新兵器の性能テストだろう。彼らにとってスポーツは、カタログスペックの提示に過ぎん。だが、不規則性を愛する我々にとっては、このカオスこそが、最大の勝機だ」

 黒瀬が細い指先で、コート中央を指した。フロアシフト――床スライド。

「智。五秒ごとの不規則な床移動。お前の演算能力なら、予読できるか?」

 部屋の隅、フードを深く被ったままの智が、タブレットを叩いた。

「……容易です。警告音の周波数から移動ベクトルを逆算します。……僕の狙撃は、この床の『揺れ』すらも、弾速を上げる加速装置として利用できる」

「頼もしいわね。でも、ショウタくんの『千手観音ショット』はどうなるの?」

 ひなたコーチがハチを抱き上げながら、静かにショウタを見つめた。

「……できます。いや、もっと、複雑にできます」

 ショウタは、痺れる左手を強く、骨が軋むほど握り締めた。

「サイドウィンド――不規則な横風があるなら、それを巻き込んで弾道をさらに歪ませる。床の揺れを、僕のステップで殺すんじゃない。逆に、球威に乗せて、見たこともない軌道を描いてみせます」

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