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からくりドッヂボール  作者: 水前寺鯉太郎
高校生編

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74/80

第74話:貫通する絶望

 西暦三一〇一年。からくりドッヂボール全国大会、一回戦。

 広島代表エクリプスが足を踏み入れたのは、巨大な歯車が噛み合い、無数の電子回路が血管のように蠢く、IDF公式カラクリコートだった。

「……いいか。相手は茨城・水戸商業。データは極めてシンプルだ。全弾が、物理装甲を無効化する『貫通属性』。脳筋の極致だ」

 黒瀬クロセ監督が、パイプ椅子に深く腰掛けたまま、地鳴りのような低い声を響かせた。

「バリアも、肉体によるガードも、奴らの前ではただの紙切れだと心得ろ。当たるな。それだけが、この理不尽を生き残る唯一の戦術だ」

「……わかってますよ。当たらなきゃ、なんてことねえ。要は避けゲーだろ」

 丸山が不敵に拳を鳴らし、ゆなが気合を入れ直すように自らの頬を叩いた。ベンチの隅では、ハチが「コゴーッ」と、主人の決意を知ってか知らずか、不敵な寝息を立てていた。

 ピーーーーーッ!!

 試合開始のホイッスル。同時に水戸商業のエース、衣笠が動いた。

 彼の手から放たれたのは、メタルコープ社製の新兵器、深紅の「赤球」。

「……来いっ、真っ向から受けてやる!」

 丸山が、反射的に胸元でボールを迎え撃とうとした瞬間、リカの悲鳴に近い叫びが空気を切り裂いた。

「丸山くん、避けて! それは『捕る』ための球じゃない! 防御不能よ!」

 ドォォォォォンッ!!

 赤球は丸山の脇腹を紙一重でかすめ、背後に展開していたはずの厚さ十センチの電磁オートバリアを、豆腐のように貫通した。そのままコートの外壁に激突し、深いクレーターを刻む。

「……バカな。バリアごと、一瞬で抜きやがったのか。生身で受けてりゃ、今頃風穴が空いてたぜ」

 丸山の額に、初めて本物の冷や汗が流れた。水戸商業のスタイルは、スポーツにおける「守備」という概念を、その暴力的な出力で根底から否定するものだった。

 試合開始から一分。コート床面から、冷徹な警告音「ピピッ」が鳴り響く。

 フロアシフト、発動。エクリプス側の足場が、右方向へ二メートル、急激に加速スライドした。

「……っ、足場が逃げる! 姿勢が崩れる!」

 ゆながバランスを崩した、そのコンマ数秒の隙を、水戸商業の虎杖が狙い澄ました。放たれた黒球が、ゆなの右肩を容赦なく掠める。

【ゆな HP:105 →85 / 警告:体勢復帰を急げ】

「……ちっ、計算外の加速だ。だが、この不合理、僕の数式なら『燃料』にできる」

 サトシが、フードの下で暗い笑みを浮かべた。彼は、床が動く際の物理的な慣性を逆に利用し、自身の精密狙撃に強烈な遠心力を上書きした。

 シュンッ!

 智が放った青球が、上空に浮かぶ加速用「スカイリング」を最短距離で通過。貫通力が臨界点まで跳ね上がった弾道が、水戸商業のアタッカー、野中の無防備な胸元を、一閃。

「……ぐあっ!?」

【野中 HP:100 →60 / 機能低下確認】

「智、ナイスだ! 演算の隙間は、僕の『ノイズ』で埋めてやる!」

 ショウタが、左腕を深く、蛇のように引き絞った。肺が「ヒュー……」と鋭く鳴る。だがそれは、もはや死を待つ悲鳴ではない。未知の戦場を掌握するための、研ぎ澄まされた戦闘ビートだ。

 ショウタはサイドウィンドが吹き荒れるタイミングを見計らい、わざと風の影響を受けやすい軽量の「黄球」を選択した。

「喰らえ。……千手観音ショット・ウィンドミックス!」

 人工の風に煽られ、不規則な床の振動を吸収してさらに弾道を歪ませた、殺意のノイズ。それが水戸商業の堅実な陣形を、内側から食い破るように襲った。

「……何だこの球は! どこで曲がる、どこに飛んでくるのか、AIの予測さえ追いつかん!」

 混乱に陥る水戸商業。そこへ、丸山の神速の復帰投球と、ゆなの地を這うデトロイトシュートが畳みかける。

 残り三十秒。ライフ差は、わずか。

 ショウタは、ディスペンサーから吐き出された最後の一球――脈動する「赤球」を、左手でがっしりと掴んだ。ボールから伝わる異様な熱が、左腕の痺れと激しく共鳴する。

「……これが、僕たちの不完全な『答え』だ!」

 ショウタの、視線をフェイクに使う不規則な予備動作。リカの、コンマ一秒の隙を突く正確なナビ。そして智の、全弾道を最適化する精密誘導。

 三人の意志が、電子と肉体を超えて一つに溶け合った瞬間。エクリプスという巨大な影が、茨城の巨像を、完全に呑み込んだ。

 ピーーーーーッ!!

【試合終了:エクリプス 勝利(点差 10)】

「……やった。……やったぞ、一回戦突破だ!!」

 丸山が咆哮し、リカが安堵で膝をついた。ベンチでは三宅コーチが、目を覚ましたハチを高く抱き上げ、少女のような歓喜の声を上げていた。

 

 騒乱のコートの隅。黒瀬監督だけが、静かに、一点の曇りもないモニターを見つめ続けていた。

「……不完全なりの、最適解か。だがショウタ、喜ぶのはまだ早い。これは、地獄の入り口に過ぎんのだから」

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