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からくりドッヂボール  作者: 水前寺鯉太郎
高校生編

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72/80

第72話:歪な歯車

 廃倉庫の体育館に、懐かしくも、刺すような冷たい緊張感が満ちていた。

 ネットの向こう側。新生ストリートドッグスの若手たちは、清盛キヨモリ監督の徹底した軍隊的指導により、五人で一つの巨大な生き物のように、完璧に統率された構えを見せていた。

「……丸山、ゆな。最初から一気に飛ばすぞ。僕たちの『色』を、あの鉄の壁に刻みつけてやるんだ」

 ショウタの鋭い号令と共に、初陣の火蓋が切られた。

 

 序盤、エクリプスは圧倒的な個のスペックでマウンドを蹂躙した。丸山の神速を乗せた剛速球が、ドッグスの内野を物理的に後退させ、ゆなの急激に沈むデトロイトシュートが、相手のカウンターを無慈悲に跳ね返していく。

「……へっ、チョロいな! これが世界を獲ったエースのいるチームの力だ、思い知れよ!」

 丸山が咆哮した。だが、ベンチに深く座る清盛の表情は、冬の湖面のように微塵も揺らいではいなかった。

 試合中盤、潮目が冷酷に変わる。

 個々が勝手に動くエクリプスの「癖」を、ストリートドッグスが網を絞るように組織的に包囲し始めたのだ。

「智、右だ! 狙撃でその包囲を崩せ!」

「……無茶を言わないでくれ。リカさんの位置取りが、僕の精密な射線を物理的に塞いでいる」

 智の冷徹な指摘に、リカがハッとして足を止める。

「ごめん! でも、さっきの統計弾道だと、次は左に来るはず――」

 

 連携が、噛み合わない。

 丸山が強引に突っ込めば、ゆなとの間に巨大な「死角」が生まれた。そこを、ストリートドッグスの、まるで一本の神経で繋がっているかのような精密なパス回しが正確に突いてくる。

【エクリプス Total-HP:415→280 / 警告:陣形崩壊】

「……っ、なんで、当たんねえんだよ! 動きが読み切られてるのか!?」

 焦り、肩に力が入る丸山。ショウタの「千手観音ショット」も、味方の不規則な動きを予測しきれず、本来の多角的なノイズを発生させられずにいた。五つの最強の歯車が、互いの歯を削り合っている。

 残り一分。ライフ差は絶望的。

 絶体絶命の瞬間、ショウタが肺の奥で呼吸の時計ビートを極限まで加速させた。

「みんな、僕を見ろ! 僕に合わせなくていい。僕が、全員をこの『ノイズ』の中に巻き込んでいく!」

 ショウタが放った、軌道が三度変わる不規則な一投。それに呼応するように、智がコンマ数秒のタイムラグを置いて、光線のような狙撃を重ねた。

 

 偶然か、あるいは必然の干渉か。

 二つの球が空中で衝突し、火花を散らしながらストリートドッグスの完璧な予測モデルを、今日初めて「致命的なエラー」へと追い込んだ。

 ドゴォォォォォンッ!!

 相手の主将格から、一気にライフを削り取る。

 だが、反撃もそこまでだった。最後は清盛が育てた「連携の極致」による、冷徹な波状攻撃がエクリプスの脆弱な陣形を切り裂いた。

 

 ピーーーーーッ!!

 体育館に、重い沈黙が流れた。

「……負けた。……僕たちの、完全な負けだ」

 丸山が床を拳で叩き、ゆなが悔しさに唇を噛み切り、自分の掌を凝視した。智は無言で、今の敗北データを無慈悲にログへ保存した。リカは肩で息をしながら、自分たちの立ち位置の甘さを、鉄の味とともに噛み締めていた。

 ベンチで、キャン、とハチが鳴いた。まるで、まだ夜は始まったばかりだと励ますように。

「……ショウタ。お前たちの個は、確かに化け物だ。だがな」

 清盛監督が、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。その影が、ショウタたち五人を包み込む。

「今のままでは、タイタンズの鋼鉄の組織防御に触れることすらできずに終わる。お前たちはまだ、五人で一つの『エクリプス』になれていない」

「……わかってます。でも、今、一瞬だけ見えました」

 ショウタは、痺れる左手を強く、骨が鳴るほどに握り締めた。

 智との一瞬の共鳴。リカの鋭い視線。丸山とゆなの圧倒的な圧力。それらが、不協和音を超えて一つに溶け合う「蝕」の瞬間を、彼は確かにその網膜に焼き付けたのだ。

 ウォッチが震えた。ジョスからのメッセージだった。

【十五点差の敗北? 悪くないわ。その悔しさを、ジュネーブの会議室まで聞こえるくらいの咆哮に変えなさい。……次は、私が直接見てあげるから。覚悟しておきなさいね】

「……行こう。次は、絶対に負けない」

 敗北の味は、安っぽい鉄の匂いがした。

 だが、その不快で熱い味こそが、野良犬たちが本当の牙を手に入れるための、最高の餌だった。

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