第7話:外野から見える景色
第7話:外野から見える景色
1 開幕の格差
D25廃棄スタジアムの内部は、外から想像するより遥かに広かった。
天井は高く、コートを囲む観客席は三層構造になっている。下層には下層の人間が、上層には上層の人間が陣取り、それぞれ別の目的でこの試合を見下ろしていた。コートを挟んで向こう側、ストリートドッグスの五人が整列するのを、しょうたはベンチから見た。先頭にガンツがいる。廃棄スタジアムの薄暗い照明の下でも、全身の傷跡は隠しようがなかった。
審判のホイッスルが鳴る。
レインボーガーディアンズのスターティングは、清盛・スエ・山田の三アタッカー、バッターにタイシ、シューターにサクラ。しょうたは工藤と浜脇とともにベンチへ下がった。座った瞬間に気づいた——コートの外から見ると、何もかもが違う。
最初の黒ボールが飛んだ瞬間、しょうたは息を呑んだ。
ストリートドッグスの投球は「当てる」ためのものではなかった。相手の体の、特定の部位を狙っている。膝。肘。着地の瞬間の足首。倒すより先に、動けなくする。清盛が瞬足で躱すたびに、次の球がすでに空中にある。サクラが小回りを使って逃げるたびに、コートの端へ追い詰められていく。審判が旗を上げるたびに観客が野次を飛ばした。合法と違法の境界線を、ガンツたちは熟知していた。
2 タイシの一分間
六十秒が経過した。
コートの中央に穴が開き、赤・青・黄の動き回るボールが射出される。観客席が一段階沸いた。上層ラウンジでは、新たな賭けが始まったはずだ。
タイシが動いた。
スイングの質が変わった。さっきまでの柔らかい動きが消え、腕の筋肉が膨らみ、バットが空気を爆発させるように振り抜かれる。赤ボールが軌道を変え、コートの壁へ叩きつけられた。続いて黄ボール、青ボール。観客が声を上げるたびに、タイシのスイングは増していく。
しょうたはそのタイシの横顔を見て、気づいた。
目が、ガンツだけを見ている。動き回るボールを処理しながら、視線はずっと向こう側のキャプテンへ向いている。怒りで動いている。怒りは一分しか続かない。
「タイシ、ボール!」
清盛の声が飛んだが、一瞬遅れた。タイシのスイングが初めて空を切る。肩が落ちる。一分が、終わった。
3 山田、退場
ガンツが動いたのはその瞬間だった。
タイシへ黒ボールを放る——だが、それは囮だ。タイシが反応するより先に、ブルの第二投が横から飛んでいた。清盛が叫ぶ。間に合わない。
鈍い音がして、山田が吹き飛んだ。
ウォッチのゲージが削れる音が静寂の中に響く。山田はラインの外へ転がり、外野コートへ向かいながら一度だけ舌打ちした。ベンチに静電気が走る。工藤がメモを取る手を止め、しょうたの肩を静かに叩いた。
「次はお前だ」
しょうたの足が、一瞬固まった。
4 外野の視点
コートへ踏み出す直前、外野コートを横切る山田が低く囁いた。
「ベンチから見てたろ。どこに穴がある」
問いではなく、試験だった。しょうたは一瞬だけ迷い、答えた。
「……ガンツは、必ずタイシを見てから投げます。一度だけ、視線がそっちへ動く。癖がある」
山田が歩みを止めずに口角を上げた。
「上出来だ、新入り」
しょうたはリストバンド型ウォッチを確認した。自分のライフゲージが点灯する。コートの向こう、ガンツがこちらを見ていた。値踏みするような目だ。しょうたは左手を握り、ラインを踏んだ。




