表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくりドッヂボール  作者: 水前寺鯉太郎
ワールドカップ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/80

第52話:清盛が倒れる(1)


 ドバイ・ナショナル・スタジアム。

 十二万人の観衆が、コートの隅に力なく崩れ落ちた一人の男を、呪われたような静寂の中で見つめていた。

「……清盛キヨモリさんっ!」

 ショウタの悲鳴がアリーナに響く。だが、清盛のライフゲージは無情にも「0」を刻み、警告の赤光を点滅させていた。

 第2部。ボロボロの旧式機体を酷使し、誰よりも先に死線のマウンドに立ち続けてきた男。その精神の貯蔵量は、もはや一滴も残っていなかった。

 清盛は、外野へと運ばれる担架の上で、微かに濁った目を開けた。

「……神崎。……あとは、お前が、この群れを……」

 血を吐きながら紡いだその言葉を最期に、彼は静かに意識を手放した。

「……日本代表、暫定キャプテンの選定を。工藤コーチ、即座に判断を仰ぎたい」

 審判の、冷徹な合成音声。工藤クドウが眼鏡の奥で苦渋のホログラムを開こうとしたその瞬間。コートの中央で、一人の男が、折れた誇りを拾い上げるように右腕を高く挙げた。

 神崎レン。

 鏡面仕上げの特注義腕から、激しい過負荷演算による白熱した排熱を噴き出し、彼は工藤を真っ直ぐに射抜いた。

「――俺がやる。……清盛の代わりに、この『ストリートドッグス(野良犬)』の喉笛を、俺が預かる」

 その声には、かつてのアッパーシティのエリート特有の、鼻持ちならない尊大さは微塵もなかった。そこにあったのは、倒れた戦友の温度を背負った、重く、凄絶な「覚悟」だけだった。

 工藤は、眼鏡の奥で、初めて一人の「人間」として神崎に頷いた。

「……了解した。日本代表暫定主将、神崎レン。……全権を、お前に託す」

「タイシ、入れ。……お前の右腕で、奴らの軍事規格という名の『壁』を、物理的に叩き割れ」

 神崎の、容赦のない指示が飛ぶ。

「へっ……。了解だぜ、キャプテン!」

 タイシが右腕のカウルを猛然と唸らせ、餓えた狼のような、牙を剥いた笑みを浮かべてコートへ躍り出た。

「サクラ、俺の背中に立て。お前の『非言語的な揺らぎ』を、俺のプロセッサにリアルタイムで直接流し込め。……お前の直感と、俺の論理。……二つ合わせて、ロシアの軍事AIの裏をかく」

「……分かった、レン。……同期ニューラル・リンク、開始!」

 ショウタは、神崎の指示に従い、肩で激しく喘ぎながら一旦ベンチへ下がった。

 「ヒュー……、ヒュー……」

 止まらない喘鳴。だが、不思議と心は凪いでいた。清盛が命懸けで繋いだボロボロのバトンを、今、あの神崎レンが血を流しながら握りしめている。

 

(――まだだ。……まだ、僕の左腕は、戦いを拒否してなんかいない)

 

 ショウタは、オオシロから手渡された吸入器を、肺を破らんばかりの深さで吸い込んだ。

 コート中央。

 神崎とサクラが、背中合わせで一つの巨大な「多感覚生命体」と化していた。

 ロシアのアントノーヴィッチが放つ、音速の『トルネードショット』。

 神崎の瞳が、赤い演算光と、サクラの網膜が捉えた「色彩の揺らぎ」に同時に染まる。

 

「……見えたぞ。一千億の演算を嘲笑う、軍事規格の唯一の『死角』が!」

 

 神崎の放った、光の矢の如き一撃が、砂漠のスタジアムに、逆転への凄絶な火花をぶち開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ