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からくりドッヂボール  作者: 水前寺鯉太郎
ワールドカップ編

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第46話:決勝へ。父との試合へ(1)

 ショウタの血塗られた告白が終わった後、戦術ルームを支配したのは、重苦しい沈黙などではなかった。それは、ただ純粋で、かつ獰猛な「戸惑い」だった。

 タイシは呆然と口を開け、サクラはショウタの激しく震え続ける指先をじっと見つめていた。トキは胸元の「NO METAL CORE」のステッカーを一度だけ慈しむように撫で、静かに、深く目を閉じた。

「……そりゃ、ひっくり返るほど驚いたぜ、ガキ」

 口火を切ったのは、タイシだった。彼は立ち上がると、無造作にショウタの頭を大きな掌でわしづかみにして揺らした。カウルを外した素手の、汗とオイルの匂いがショウタの鼻を突く。

「道理で、ガキのくせにあのロシアのバケモンと同じ、嫌な角度でボールを投げるわけだ。……だがよ、ショウタ。それがどうした?」

「え……?」

「親父が相手だろうが、神様が相手だろうが、俺たちのやることは変わらねえだろ」

 タイシは、白煙を吹く前のエンジンのような、不敵な笑みを浮かべていた。

「俺たちは**『ストリートドッグス(野良犬)』**だ。アッパーシティに捨てられ、システムに爪弾きにされ、泥を啜ってここまで来た。……親一人いねえ、あるいは親に殺されかけた奴なんて、このチームにはザラにいる。お前に親父がいた。そいつが世界最強の敵だった。……最高に面白いじゃねえか。なあ!」

「タイシの言う通りよ」

 サクラがショウタの隣に歩み寄り、その小さな、だが熱を帯びた背中にそっと手を添えた。

「あなたが誰の息子かなんて、私たちの『目』には関係ない。……私たちがドバイの地で、そしてあのみ窄らしい廃倉庫で見続けてきたのは、喘息に苦しみながら、それでも左腕一本で世界の理不尽をバグらせてきた、一人のエースの姿だけだもの」

 トキも静かに頷き、その澄んだ瞳をショウタに向けた。

「設計図(血筋)が同じでも、動かす意志コードが違えば、それは全く別の存在です。……君の左腕は、君自身の絶望と選択でここまで来た。それを証明するのが、明日のマウンドだ。父という名の『オリジナル』を、君という『例外』で上書きしてやりなさい」

 工藤クドウが眼鏡の奥で、計算外の、青白い熱を帯びた瞳でショウタを見た。

「……統計学的な親子関係など、決勝のマウンドの上ではただの処理ノイズだ。……だが、そのノイズこそが、HP 750という怪物を内側から焼き切る唯一の『特異点』になる。……そうだろう、オオシロさん」

 オオシロは、静かにホログラムの戦術チャートを閉じた。

「ええ。……血の繋がりは、弱点ではなく、共鳴レゾナンスの鍵です。父のフォームを識ることで、自分の腕をより深く掌握する。明日の決勝、ショウタ選手の左腕は、これまでのどの試合よりも『自由』に、そして残酷になるはずです」

 清盛キヨモリが、全員の顔を見渡した。

 そこには、五倍のライフ差に怯える選手の顔はなかった。日の丸を背負った「日本代表」という、身の丈に合わない綺麗な器を粉々に脱ぎ捨て、剥き出しの牙を晒した「野良犬」たちの顔があった。

「戦術は、極めて非合理的だが一つ。――エンドウ・ケンジの心臓を、ショウタの左腕で仕留める」

 清盛の、断頭台へ向かうような断言。

「あいつは怪物だ。だが、あいつの中には、ショウタと同じ『不規則なノイズ』がかつて眠っていたはずだ。……神崎、トキ、タイシ。お前たちは全員で、ショウタをケンジの真正面、一騎打ちの座標まで送り届けろ。……スエ、工藤、サクラ。お前たちはコート外から、システムの裂け目を探し、弾道の光をハックしろ。……俺は、俺の最後のライフが爆ぜるまで、盾になる」

「「「了解!!!」」」

 咆哮が重なり、戦術ルームの重圧は、決勝という盤面を喰らい尽くすための純粋な「飢え」へと変貌した。

 深夜、ショウタは一人、選手村の中庭にいた。

 明日には、すべてが決まる。母の治療費、スエの居場所、タイシの意地、神崎の進化……そして、自分と父との、血塗られた決着。

「ヒュー……」

 微かな喘鳴が、砂漠の砂を含んだ乾いた夜風に混ざる。

 ショウタは、感覚の消えかかった左手を、強く、壊れるほどに握り締めた。

 数字は、依然として冷徹な死を宣告している。だが、その不可能性こそが、野良犬たちの最高のご馳走だった。

「……見てろよ、親父。……あんたが捨てた『欠陥ノイズ』が、あんたの完璧な世界を、一投で全部壊してやるから」

 ショウタの瞳に、アリーナのサーチライトが反射し、真っ赤に燃え上がった。

 それはかつて掲示板で見た、父・ケンジの光学レンズと同じ色でありながら、全く異なる「人間の血」の熱を帯びた決意の色だった。

 決戦まで、あと十時間。

 砂漠の夜が明け、運命のホイッスルが、今、奈落の底から鳴り響こうとしていた。

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