第4話:三部登録
第4話:三部登録
1 宣告の翌朝
あの日から、しょうたは体育館へ向かう足が重かった。
路地の角を曲がるたびに、清盛の背中が脳裏をよぎる。慰めも叱責も判定もなかった。あの沈黙が何を意味するのか、一晩考えても答えが出なかった。「来なくていい」と言われる前に来なければいい——そう思いながら、結局また同じ道を歩いている。テーブルに残してきた督促状の数字が、背中を押していた。
恐る恐る扉を開けると、昨日の険悪な空気は微塵もなかった。
工藤がホログラムの画面を操作し、清盛が腕を組んでそれを見つめている。スエは壁際で義腕のパーツを無表情に磨いていた。全員が当然のようにそこにいて、当然のようにしょうたを一瞥した。
「……おせぇぞ」
清盛の声に、追い出す気配は欠片もなかった。
2 三部リーグの現実
工藤がホログラムを手招きで呼び寄せ、しょうたに向けて傾けた。
三部リーグ——参加資格は生身の人間のみ。優勝賞金は二百万クレジット。二部は機人との混合戦、賞金五千万。そして一部は無差別級、賞金三億。数字が画面に並ぶのを、しょうたは息を詰めて見つめた。
「お前が憧れる標準的な機人改造、基本パッケージだけで一億だ」
工藤が眼鏡の奥から冷たく告げる。
「三部で優勝しても、指一本すら機械に変えられねえぞ」
しょうたは言葉を失った。夢だと思っていたものの輪郭が、はっきりと見えた瞬間だった——遠いとは知っていた。ただ、想像を絶するほど遠いとは思っていなかった。
3 血の署名
「だが」と清盛が口を開いた。
「ここで勝たなきゃ、二部へ上がる権利もねえ。……やるのか、ガキ」
差し出されたのは、リストバンド型スマートウォッチのペアリング画面だった。ホログラムに登録画面が展開される。
【Karakuri Dodgeball Association — Division 3 Registration】
しょうたは自分のウォッチに目を落とした。画面の端に、小さなゲージが並んでいる。一目盛りにつきライフ二十。これが試合中に削られていく。ドッヂボールが「遊び」から「命の削り合い」に変わる、その境界線が今、目の前にある。
震える指を伸ばし、ウォッチを清盛のものに重ねた。
ピ、という短い電子音。ゲージが同期し、画面にチーム名の入力欄が現れる。清盛が迷わず打ち込んだ。
チーム名:ストリートドッグス。
4 ストリートドッグス
登録完了と同時に、初戦の対戦カードが自動生成された。
【初戦:対ストリートドッグス。三日後、D25廃棄スタジアム】
その文字を読み上げた瞬間、タイシの空気が変わった。
いつも不敵に笑っている大男が、バットを握る指を白くしている。サクラが横目でタイシを見て、すぐに視線を逸らした。山田と浜脇も、珍しく黙っていた。
「……あいつらか」
タイシが低く、吐き捨てるように言った。
「よりによって最初が『狂犬』どもかよ」
誰も笑わなかった。しょうたは、チームメイトたちの横顔を順番に見た。スエの義腕。清盛の手術痕。工藤の無表情。みんなどこかから来ている——逃げ場のない場所から。自分と同じように。
三日後の廃棄スタジアムへ向かう道が、しょうたの胸の中でゆっくりと伸びていった




