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からくりドッヂボール  作者: 水前寺鯉太郎


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第3話:隠し事は最初からバレている

第3話:隠し事は最初からバレている


1 鉄の洗礼 


 翌朝、しょうたは体育館の扉を開けた瞬間に悟った。昨日見た「熱」は、外から眺めるものだったのだ。

 清盛のノックは挨拶も準備運動もなく始まった。手製のゴムまりとはいえ、放たれた球は空気を裂く音を立てて飛んでくる。時速百五十キロ。捕り損ねれば指が折れる。機人ならばそれが日常だが、生身の体には単純に、凶器だ。

 しょうたは歯を食いしばりながら体を動かした。捕れなくていい、当たらなければいい。細い体を目いっぱい使って、ギリギリのところでかわし続ける。一球、二球、三球——壁際へ追い詰められるたびに重心を低くして滑り込み、床を蹴って逃げる。捕球技術ではなく、体の小ささと反射神経だけで凌いでいた。

 「逃げ足だけは一人前だな」

 山田が笑った。浜脇が「それしかないんだろ」と続け、二人で肩を叩き合う。しょうたは黙って次の球を待った。否定できなかった。


2 眠れる左の覚醒


 練習の終盤、清盛が初めてしょうたに向かって口を開いた。

 「避けてばかりじゃ勝てねえ。打ってみろ」

 構える間もなかった。清盛の右腕が振られ、球が唸りを上げてまっすぐ飛んでくる。しょうたは反射的に左手を出した。

 衝撃が肩の関節を引き千切るように突き抜ける。堪えた。腕がしなり、体の回転が全部そこへ集まって——気づけば球は放たれていた。

 低く、速く、奇妙なカーブを描きながら。左利き特有のシュート回転。重力に逆らうような軌道が、コートの端に立つサクラの喉元をかすめ、奥の壁へ叩き込まれた。鉄板が凹む鈍い音が、体育館に響く。

 誰も声を出さなかった。

 「……なんだよ、今の」

 タイシが低く呟く。工藤が素早くメモを走らせ、サクラが目を丸くしたまま自分の首元を押さえていた。清盛だけが無言で、しょうたをまっすぐ見ていた。


3 静寂を破る機械の告白


 だが、次の瞬間には肺の奥が燃えていた。

 ヒュー、という細い音が喉の奥から漏れる。しょうたは素早く背を向け、口元を手で覆った。息を整えようとするほど気道が締まる。発作だ。最悪のタイミングだ。「ここで弱さを見せれば終わる」——その一心で、しょうたは壁を向いたまま動かなかった。

 重い足音が近づいてきた。

 「……しょうた。お前、肺の音が変だ。酸素摂取効率が基準値を三十パーセント下回っている」

 スエだった。銀色の義腕を体の横に垂らしたまま、感情のない瞳でしょうたを見下ろしている。

 「な、なんでもない。ちょっと疲れただけ……」

 「私は工場の失敗作だ。嘘をつくためのプロトコルが実装されていない」

 スエは表情一つ変えずに続けた。

 「お前の肺は、壊れている。隠しても無駄だ」

 体育館が静まり返る。サクラとタイシの視線がしょうたの背中に刺さる。山田と浜脇でさえ、黙っていた。


4 清盛の背中


 「……っ、ごめん。でも、できる。ドッヂボールなら、俺——」

 振り返りながら必死に言葉を繋ごうとしたしょうたを、低い声が遮った。

 「今日はここまでだ。解散」

 清盛だった。それだけ言うと、しょうたの顔を一度も見ずに体育館の奥へ消えていく。慰めも、叱責も、判定も何もない。ただ、背中だけが遠ざかっていった。

 残されたしょうたは、じわじわと痺れていく左手を握り締めた。追い出されたわけでも、認められたわけでもない。宙ぶらりんのまま夜の路地へ出ると、人目を避けるように路地裏へ折れ、吸入器を口に押し当てた。薬が気道へ広がっていく。冷たく、苦く、情けない感触だ。それでも左手の痺れは、まだそこにあった。

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