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からくりドッヂボール  作者: 水前寺鯉太郎
リーグ編

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第14話:データは嘘をつかない(2)

第14話:データは嘘をつかない(2)


1 限界


 試合経過、二分四十秒。清盛の足が、ついに止まった。瞬足の起動が間に合わなくなった。次のステップを踏もうとして、膝が一瞬、笑った。コートの中央でわずかに体が泳ぐ。観客席のどこかから歓声が上がった。アイアンクロウのベンチで誰かが立ち上がり、ミライが一歩前に出た。義眼が、止まった獲物に焦点を合わせる。清盛が、ゆっくりと顔を上げるとしょうたと、目が合った。

 その瞬間、しょうたは見たことのない表情を清盛の顔に見た。普段の不愛想でも、通路で見せた「見られたくない弱さ」でもない。

 頼む。

 声は出ていない。口も動いていない。だが、その目は確かにそう言っていた。プライドを脇に置いて、しょうたに何かを託そうとしていた。

 しょうたは、迷わなかった。


2 代役


 体が、清盛の前へ滑り込んでいた。

 ミライの黒ボールが放たれる直前、しょうたは清盛と相手の射線の間に立った。小柄な体を最大限に使って、清盛を背に庇う形を取る。投球をキャッチするためではない。射線そのものを、ずらすためだ。

 ミライの義眼が、わずかに揺らいだ。

 演算が、ぶれた。当たり前だった。ミライの計算は「清盛の動き」を前提にしていた。そこに別の選手が割り込めば、軌道予測の前提が崩れる。投球は放たれたが、ボールは清盛の肩を掠めて壁に弾かれた。

 【清盛 LIFE:95(変動なし)】

 観客席が、初めて沈黙した。

 しょうたは振り返らずに叫んだ。

 「下がってください、清盛さん。十秒だけ、こっちで持ちます」

 清盛は何も言わなかった。それから、踵を返して後方へ下がった。プライドの高い男が、後輩の背中に従った。それだけで、しょうたの胸の奥が熱くなった。


3 サクラの目


 しょうたが時間を稼ぐ間、コートのもう一方では別の戦いが起きていた。

 シューターのサクラが、シューター枠としての本来の仕事に入った瞬間だった。色付きボールを投入する位置取りを見極めながら、ミライの動きを観察していた。サクラのスキルは「小回り」だが、それは身体能力の話であって、目の話ではない。

 ミライが次にどこへ動くか、サクラには見えていた。

 義眼の演算は、過去の試合データに基づく統計的な予測だ。しかし、サクラの目は別の情報を捉えていた。ミライが軌道を計算するとき、無意識に首をわずかに傾ける癖。義眼の処理が走る瞬間の、半秒のラグ。それは数値には現れない、生身の人間にしか気づけない揺らぎだった。

 サクラは黄ボールを、ミライの「次の予定位置」ではなく「演算ラグの間に動く実際の位置」へ投入した。

 ミライが反応した時には、黄ボールはすでにそこにあった。

 【ミライ STATUS:STUN(30秒)】

 義眼の処理が、停止した。アイアンクロウのアタッカーが声を上げた。観客席のざわめきが、一気に膨れ上がった。データに完全に従って戦う選手が、データに表れない要素で足を止められた。それは、この試合で初めて起きた「想定外」だった。

 工藤がベンチで眼鏡を押し上げた。

 「……サクラ、お前そんな目してたのか」

 サクラはコートの中央で、肩で息をしていた。だが、口の端だけが微かに上がっていた。


4 一瞬の主導権


 ミライが三十秒動けない間、レインボーガーディアンズは攻勢に出た。

 清盛が後方で呼吸を整え、しょうたとスエが前線で圧をかける。タイシのバットが赤ボールを弾き、相手陣の足元へ転がす。ストリートドッグス戦で見せた爆発力ほどではないが、コートの均衡が、初めてレインボーガーディアンズへ傾いた。

 カインが動こうとした。だが、ミライがいないままでは、彼の投球の正確性は活きない。情報の支配者を失ったアイアンクロウは、わずかに動きが遅れた。

 その隙にしょうたが黒ボールを投げた。

 左利き特有のシュート回転。狙ったのはアイアンクロウのアタッカーの足元だった。重力に逆らうように曲がったボールが、相手の踏み出した一歩を狂わせる。

 【アイアンクロウ・サブアタッカー LIFE:100 → 95】

 観客席が、二度目のどよめきを上げた。

 ベンチに下がった清盛が、息を整えながら一度だけ、しょうたの背中を見た。何も言わなかった。だが、その目はもう、頼むではなかった。

 頼んだ、という目だった。

 ミライのスタンが解除されるまで、あと十五秒。レインボーガーディアンズの一瞬の主導権が、どこまで持つか——コートの空気が、少しだけ変わった。

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