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からくりドッヂボール  作者: 水前寺鯉太郎


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第11話:別格の重さ

第11話:別格の重さ


1 解剖


 二部登録完了の翌朝、工藤がホログラムに三本の映像を並べた。

 「アイアンクロウの直近三試合だ。各自、自分のポジションに対応する選手を見ろ」

 誰も口を開かなかった。体育館の薄暗い空気の中、ホログラムだけが青白く光っている。しょうたは前列に座り、画面を見つめた。

 三つの映像が、同時に流れ始めた。


2 三つの怪物


 最初の映像、キャプテン、カイン。

 全身換装率九十二パーセント。人間の部位として残っているのは、脳と脊髄の一部だけだとされている。投球フォームに無駄がない——というより、無駄を生む筋肉がそもそも存在しない。サーボモーターが最短経路で腕を振り抜く。計測された投球速度が画面の隅にリアルタイムで表示される。

【MAX VELOCITY(最高速度):287km/h】

 清盛が腕を組んだまま、微動だにしなかった。

 二本目、ミライ。アタッカー兼シューター。義眼に軌道演算システムを搭載しており、投球前に相手の移動パターンを予測してボールの着弾点を計算する。映像の中で、ミライが放った黒ボールは一見外れたように見えた。だが相手が躱した先に、すでにボールが来ていた。逃げ場所ごと、先に塞がれていた。

 サクラが「……嘘でしょ」と呟いた。

 三本目、ジオ。バッター。下半身を丸ごと機械脚に換装しており、最大移動速度は人間の限界の三倍を超える。赤ボールが飛んできた瞬間、ジオはすでにその軌道の外にいた。バットを振る必要すらない。ただ、そこにいないだけで赤ボールを無効化する。

【MAX SPEED:74km/h(瞬間移動速度)】

 タイシがバットを握り直した。指の関節が白くなった。

3 数値の暴力

 工藤が映像を止め、比較データを展開した。

 ホログラムに二列の数字が並ぶ。左がレインボーガーディアンズ、右がアイアンクロウ。投球速度、反応速度、スタミナ持続時間、ライフ総量——全項目で、右の数字が左を上回っていた。ライフの欄だけは特に残酷で、アイアンクロウの平均ライフ総量はレインボーガーディアンズの三倍近い。

 「現時点での戦力差を正直に言う」

 工藤が眼鏡の奥から全員を見渡した。

 「勝てる根拠が、数字の上には存在しない」

 山田が鼻を鳴らした。浜脇が天井を見た。サクラは膝の上で手を組み、視線を落とした。清盛は何も言わなかった。

 しょうたはホログラムの数字を見つめたまま、左手を握った。


4 憧れという毒


 その夜、しょうたは一人でホログラムの映像を見返していた。

 カインの投球フォーム。ミライの義眼。ジオの機械脚。繰り返し、繰り返し。

 機械の体になれば、と思った。カインと同じ腕があれば、あの速度が出る。ミライと同じ義眼があれば、相手の動きを先読みできる。喘息のCAUSEログは消える。ヒューという音も消える。ゲージが勝手に削れることも——全部。

 だが、映像の中のカインを見ていると、ある違和感が引っかかった。

 投球が、正確すぎる。

 軌道が、綺麗すぎる。フォームに揺らぎが一切ない。完璧だ。それなのに——見ていて、怖くない。ガンツの球は数値では遥かに劣るはずなのに、あの瞬間の方がずっと、死を感じた。

 しょうたはその違和感を、うまく言葉にできなかった。

 吸入器を口に当てた。薬が気道に広がる。ウォッチのログに、今日分のCAUSE(原因)が一行追加された。左手を握る。熱はある。

 機械になれば、この熱も消えるのだろうか。

 答えは出なかった。ホログラムの中でカインが、また完璧なフォームで腕を振り抜いた。

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