表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星に願いをかけるのはいいけれど〜リテイクお願いします!〜  作者: コーヒー牛乳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/30

まあ、こんなもんかなって

「いよいよ期末テストですね」

「そうだね」


カリカリ


「先輩は準備万端そうですね」

「準備……というか、学校のテストは今までの範囲を理解しているかどうかの確認だから、まあ必要なのは見直しぐらいかな」


カリカリ


「ぐう……!」

「なにそれ。もしかして“ぐうの音”? わぁ……初めて聞いた」


「おめでとうございます」

「ありがとうございます」


こんなくだらないやり取りをしつつも、先輩の手は止まらない。カリカリカリカリシャープペンの芯が削れ文字になる音が聞こえる。


「……先輩は何か目的があって、そんなに勉強してるんですか?」


カリ、とペンの音が途切れ先輩の視線がこちらに向いた。最近の先輩は、部室に来ると前髪シャッターをどかしている。やっぱり邪魔なんじゃないか。そして、先輩の綺麗な紺色の目がよく見えるようになって、視線が合うと一々緊張してしまう。


「──ハルコは、違うの?」



先輩の言葉と、あのキョトンとした表情が頭の中で洗濯機のようにぐるぐる回る。

あ、乾燥終わった。

乾燥機の中から乾いた衣類を取り出し、それぞれの分に別けてバスケットに入れる。

うちでは廊下に洗濯乾燥済の衣類が入ったバスケットを置いておくと、各々バスケットを自室に持って帰る流れになっている。


バスケットを廊下に並べ終わり、自室に戻ろうとした瞬間。ガタガタと足音が鳴り鍵を差し込む音がした。うっすらと“しまった”という気持ちが心の中に浮かんだけれど、体が固まって動かなかった。


「──あら、春子。帰ってたのね」

「春ちゃん、ただいま~」


母だ。そして、姉も同時に帰ってきた。


「おかえりなさい」


さっき見たスマホの画面は二十時だったと思う。姉はともかく、母がこんな時間に帰ってくるなんて珍しい。


「随分と荷物が多いね」

「春ちゃん、お母さん疲れてるんだから気を使ってあげてよ」

「あ、ごめんね」


話すことなく部屋に引っ込めば感じが悪いと言われるだろうなと思い、どうでもいい会話を繋げようと空回りしてしまったようだ。確かに母はいつも疲れている。今日の母も目の下のクマを隠せていない。

このまま部屋に下がってもいい気もするが、なんとなく、まだ動いてはいけない気がして足が動かなかった。


「……いいのよ、ユキちゃんありがとうね」


母は自分より背の高くなった姉の頭を昔と変わらない仕草で撫で付けた。久しぶりにこの光景を見たが、なぜだか薄気味悪く思ってしまったことに罪悪感がわいた。

見ていられなくて視線を下げると、今日は珍しく母の視線が自分へと向いた。


「春子、夏休みに入ったら家を空けるからね。ユキちゃんの志望校見学に行かなきゃ」

「……そう、わかった。気を付けてね」


そういえば、前回のこの夏休み期間中に母と姉は留学先の下見に出かけたのだったか。ちょっと待てば一人の時間がやってくるのだと、少しほっとしてしまった。なぜ私はこんなにも家が居心地悪いものだと思っているんだろうか。

まあいい。このぐらい会話をすれば、もう下がっていいだろう。洗濯物が入ったバケットを抱えなおし、部屋に戻るそぶりを見せる。引き留められたいような、引き留められたくないような、胃のあたりにモヤモヤするものを抱えながら。


「まあ、春子ならしっかりしてるし大丈夫ね。あ、あともう一つ。ユキちゃんから聞いたけど、あなた進学しないって本当なの?」

「え?」


思わず、母の顔をまじまじと見返してしまう。私の視線を受けて、母は一瞬眉間に皺を寄せた。ああ、そうだった。私が母の目を見返すと、いつもそうして眉を寄せて苦しそうな顔をするのだ。それを見るのが怖くて、パッと視線を下げる。

視界に入る母の体から緊張が解け、少し弛緩したように見えた。


「今時、高卒なんて仕事あるのかしら……まあ、進学したくない子を無理やり進学させるお金は無いし、でもねえ」


母はなんと言っただろうか。姉から聞いた? そんなはずはない。だって、姉とは進学の話も何もしていやしない。だって、私は……。そういえば、なんで私は進学しなかったんだろう。進学、したいのだろうか。自分のことなのに、自分の気持ちがわからない。


「……私は、」


前の時間軸で。高卒で就職した会社は親族経営の中小企業だった。同性の同じ部署の先輩はとてもよく働くマルチな人で、誰よりも働いているのに30代を越えても役職なしで、私とあまり給料が変わらなかった。

私より後に入った大卒の男の子の給与計算をして、私たち高卒の給料を軽く飛び越えられおもしろくない気持ちになっていた時に「女の子は結婚すれば旦那さんのお給料があるんだから、そんなに必要ないのよ。無期雇用の正社員の席があるだけマシ」と子持ちの先輩は言っていた。


その時、私は何を思ったんだっけ。


自分の選択肢の狭さに“まあ、自分はこれぐらい”と諦めていたような気がする。


だって、高卒だし。

女なのは変えられないし。

こんな、結婚相手の給料頼みな給与形態の会社を選んだのは自分だし。

会社の寮にお世話になっているから、辞めたら家まで無くなるし。

こんな給与では二階より上で、オートロック付きで、ってお母さんが出した条件を満たす物件に自分の給与だけで住める気がしないし。

お母さんに送金しなきゃいけないから無職の期間なんてとれないし。


──だって、まあ、こんなもんかなって


「もう、ハッキリ喋ってくれる? お母さん忙しいのよ。春子のそういうウジウジ暗いところホントに嫌」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ