青春キラキラマジック
私は今、保健室で寝たふりをしている。
白いシーツの上で、カーテンに遮られた狭い空間で、両手を胸の前に組み寝たふりをしている。
実際のところはこんなにお行儀の良い姿勢で寝るのなんて白雪姫ぐらいだろう。
でも、咄嗟の寝たふり姿勢はコレになってしまったのだから仕方がない。
そこに現れる人影。
なぜかカーテンを開け、私の枕元までやってくる。
そして、なぜか私の顔を覗き込んでくる。
なぜ…誰かに見られながら寝たふりをしているのかをこれから説明する。
ことの始まりは本日のイベント。球技大会である。
クラス内の親睦と結束を深めるため、だいたい5月に行われる。
種目はバスケ、サッカー、バレーボールなどだ。
学年ごとに競い合い、優勝したクラスには売店のサービス券が授与されるのだ。
この飽食の時代に売店のサービス券でクラスがまとまるとでも思っているのだろうか。
何十人もの人間が一つの目標にむかい、切磋琢磨し、絆が深まるとでも本当に思っているのだろうか。
「運動部は前へ!!まんべんなく種目に配置!文化部は挙手!腕に覚えのある者は名乗り出よ!」
「「「「「おう!」」」」
うちのクラスはまとまった。
一致団結して獲物を確実に仕留めに行こうとしている。
そんなに欲しいのか。サービス券。
文化部かつ、腕に覚えのない雑兵の私はイズミ様率いるバスケチームに組み込まれた。
アカネもウミカも同じ種目だ。足を引っ張らないように頑張る所存である。
体育の時間や昼休みなど、あらゆる隙間時間を球技の練習に使った。
男子バスケチームのキャプテンである遠藤君にもご指導頂き、チームに支えられ、なんだか普通にバスケが楽しいスポーツだと思えるようにもなった。
硬い球を追いかけ回し、ゴールに入れることの何が楽しいんだと思っていましたよ。正直。
でもね、チームプレイっていうんですかね。
共通の話題がない子とでも話す機会が出来るっていうんですかね。
「ドンマイ」「すごい!」「やった!」とか声かけしたりね。前は本心じゃないだろ、なんでいちいちそんなに声を出すんだろうとか思っていましたよ。正直。曲がりなりにもテニス部に入っていたのに…
でも、言ったらわかる。共感と連帯感が生まれるんですよ。
チームメンバーを励まし、喜び、盛り上げる。それって同じものを見て、一緒に考えないとできないことなんですよ。一人でゴールを決めるより、チームメンバー5人の内誰が決めても嬉しいし楽しいんですよ。
わかりますかね、先輩」
テキストから目を離さない先輩に向かって独り語りしてしまった。
お勉強の邪魔をするつもりはないが、後輩としては一日一絡みしておきたいのだ。
「楽しそうで何よりだよ」
先輩はまだこちらを見ないが、少し口調は優しい。
「これって青春マジックなんですかね。バスケを楽しいって思い始めてから、自分キラキラしてるなーって満足感が胸に広がるんです…」
「まぁ、同年代が集団で集まってほぼ毎日顔を合わせて同じことをする機会は今しかないんだし、存分にキラキラしていいんじゃないかな」
先輩はキラキラというより、いぶし銀という感じだ。
「先輩は球技大会で何をしてキラキラするんですか」
「……キラキラしてるかわからないけど、一応、バレーボール」
聞いておいてなんだけど、先輩とバレーボールが結びつかなくて抑えようにもどうしても口端が持ち上がってしまう。
おもしろすぎる。
「絶対に応援しに行きますね」
「いいよ見なくて」
先輩はうんざりした顔でやっと顔を上げた。
先輩がどんな風にバレーボールに参加するのか気になるじゃないか。
絶対、見てやる…!と私は心に誓った。
そう、誓ったんだ。
当日。オシャレ大好きウミカ様にチームメンバーおそろいのヘアアレンジをしてもらい気合は十分。
健闘に健闘を重ね、我がチームは一年女子の部で優勝することが出来た。
奇跡である。やはり他のクラスと比べて団結力が違うからだろうか。
一年女子のバスケが終わり、二年男子のバレーボールを見に…いや、先輩の雄姿を見に!第二体育館へと急いだ。
第二体育館は校庭を通過する必要があり、外で行われているサッカーもついでに見ておく。
サッカーは今、一年男子の部を行っているようで斗真が大活躍していた。
観覧している女子たちがキャアキャア盛り上がっている。
そうだったそうだった。去年は私もここでみんなとキャアキャア盛り上がっていた。
自分のクラスのことなんて一ミリも気にして無かったし、ずっと斗真を目で追いかけてた。
一回目の時、この球技大会がきっかけで私と斗真の仲が進展したんだ。
どんなタイミングだったか、私の方にサッカーボールが飛んできて、それを私が手でキャッチ。
どんくさい私は見事に突き指しちゃって、保健室まで斗真が見にきてくれて…
今まで私から積極的にアタックしてて斗真は少しそっけなかったのに、この保健室で話したことがきっかけで普通に話すようになったんだよね。
まぁ、そんな時もあったよね。
斗真がキラキラとした笑顔と汗を振りまき、チームメイトとハイタッチする様子を見ながら、ため息を一つ吐いた。
今回も同じになるのかわからないが、突き指もボールが飛んでくるのも勘弁願いたいので早く第二体育館に行こう。そうしよう。
クルリと振り返り、サッカー見学者の群れから少し離れたところで肩を叩かれた。
「ほーしの!優勝おめでとう」
「あぁびっくりした。遠藤君もおめでとう」
急に現れた遠藤君率いる男子バスケチームも優勝だ。やはり軍隊並みの団結力がものを言わせたのか…
「ありがとう。星野が応援してくれてたから気合いはいった」
そう言い放った遠藤君は走ってここまで来たのか、少し息が弾んでいる。
照れながらもしっかり気持ちを言葉にし、相手に伝える男。それが遠藤君。
恥ずかしいのか私から視線を逸らすものの、それでもこちらの様子が気になるのかチラチラと視線を送る。それが遠藤君。
真っすぐだ。
遠藤君は、直球人間なのだ。
もしかして気があるのかも…なんて思わせぶりな程度ではない、真正面からストレートを投げてくるのだ。
遠藤君の眩しいほどの真っすぐさに、こちらも照れてしまい顔が熱くなる。
なぜだか遠藤君は私に対す好意を隠さない。よく考えれば隠す必要はないのかもしれないが、ここまで真っすぐぶつけられた経験がないので戸惑ってしまう。
「星野はこれからどこか見に行くのか?」
「あぁ、これから…」
第二体育館に行くの。
そう答えたかどうか。
直後に背中に受けた衝撃と遠藤君の驚いた顔は覚えている。
遠藤君が大丈夫かって騒ぐから、大丈夫って言いたかったんだけど中々息が吸えなくて声にならなかったかもしれない。
ふと意識が遠くなって、また上昇した時にはゆらゆらと揺れていた。視界は暗い。でも、まだ外だった。誰かに抱えられて…
抱えられて…?
とたんに耳に入って来るざわめきと悲鳴。
これは誰かに運搬されている。そう気づきました。ええ。
ここで目を開けて「下ろして!」と叫べる元気も無く…
というか、このざわめきの衆人環視の中で目を開ける勇気が出ず…寝たふりを続行して保健室まで来た。
そして、目を開けるタイミングも掴めずここまで来てしまったというわけだ。お分かりいただけただろうか。




