その時のお父さんのおはなし
――< お父さんside >――
「ハァッ?! 街中にダンジョンが現れたっ!」
「はい、何度も確認しました。間違いなくダンジョンです。」
ここは日本探索者協会にある迷宮探索隊の第三部隊「いぶすき」に与えられている部屋。
「いぶすき」の隊長、西風田政利は、驚きのあまり噴出したコーヒーのことも忘れて、報告しに来た部下に聞き返した。
彼は、「刀鬼神」の二つ名を持つ日本でもトップクラスの探索者を父に持ち、自身も『空間収納』を始めとする強力なスキルと高い戦闘能力から、日本の探索者協会で一つの部隊の隊長を任されている優秀な探索者である。
「それで、被害は? バカなガキが勝手に入ったりしていないだろうな?」
「近くにいた巡回中の警察官がすぐに気づいて応援を呼んだため、それ以降ダンジョンに入った人物はいません。ですが……」
「どうした?」
「ダンジョンが発生した瞬間、近くにいた女子高校生2名が消失したと言う目撃証言があったため、現在近隣の防犯カメラを調査中です」
「なんだとっ!」
ダンジョンが出現する際に近くの人が巻き込まれる、と言った事件は西風田政利も聞いたことがある。
いきなり何の準備もしていない状態で、ダンジョン内のランダムな階層に飛ばされてしまうため、多くの場合生還できずにモンスターに殺されてしまう。そのため誰もダンジョン発生に巻き込まれた事に気づかずに、普通の行方不明者として処理されてしまことが多いらしい。
そして、現在無事に生還できたのはたったの1名しか確認されていない。
「場所は?」
「ここです」
部下からダンジョンが発生した場所を聞いた政利の顔から、血の気が引いていく。
ダンジョンが出現した場所は、娘が通う高校の近くだった。
報告にあった女子高校生2名のイメージが娘と娘の友人に重なる。
嫌な予感がする。
そのときスマートフォンが鳴った。
液晶に出ているのは親友で、娘の友人の父親でもある東雲龍盛の名前だった。
「政利か? すまないが時間が無い、単刀直入に言うぞ。小春と綾乃ちゃんがダンジョンの発生に巻き込まれた」
嫌な予感が当たった。
「……本当なんだな」
「近くにあるシノノメの系列店の防犯カメラに映っていた。間違いない。後でデータを送る」
政利はどうすればいいか考える。
娘は戦いに関しての才能はあるが、ダンジョンには入った事が無いためレベル0だ。
上層なら生きている可能性もあるが、時間が経てばその可能性も低くなる。
「分かった俺はすぐにでも助けに行く。データは俺以外に「いぶすき」のメールにも送っておいてくれ」
「まて、これからそのダンジョンに行くんだろう。うちの専属探索者を連れて行くことはできないか?」
「ありがたい、シノノメの専属探索者なら百人力だ。俺はこれから家に連絡する。上にも共同で入れないか交渉しないといけない。すまないが切るぞ」
「頼んだ。できることなら道和さんにも手伝って欲しい」
父親である西風田道和の顔を思い浮かべる。
孫の危機と知ったら間違いなくそのまま救出に向かうだろう。
そして、孫が見つかるまでダンジョン内で暴れ続ける。
こちらの部隊との連携は考えずに……
「それは少し待って欲しい。親父に言ったらこっちが動く前に一人でダンジョン突っ込んでいきそうだ。時間が無い上に範囲も広い、できれば親父を含めた全員で確実に連携を取りたい」
「わかった。道和さんには少しの間、伝えないでおこう」
電話を切って、深呼吸する。
話を聞いていた部下が隊長である政利を見ている。
「聞いての通りだ。俺の娘がダンジョンに飲み込まれた。今から俺個人で「いぶすき」に救助依頼を出す。受けてくれるヤツは――」
「何言ってるんですか隊長」
「誰であってもダンジョンで助けを求める人がいるなら、助けるのが俺ら「いぶすき」ですよっ!」
「ちょうど女子高生を助けに行きたい気分だったんですよ。しかも隊長の子供とか超見たいんですけど」
「早く命令してください。こっちは早く出動したくてウズウズしてるんです」
部下達の気持ちがうれしい。
政利の心の奥底から熱い何かが込み上げて来る。
部下達一人一人の顔を見る。全員が今までにないほどやる気に満ち溢れている。
今すぐにでも「ありがとう」と言いたいが、彼らが求めている言葉はそれではないだろう。
「すぐに出動するぞっ! 30分以内に完全装備でガレージに集合しろっ!」
「「「「了解ですっ!」」」」
日本探索者協会所属 迷宮探索隊 第三部隊「いぶすき」
ダンジョン発生に巻き込まれた女子高校生2名の救助に出動。
――< ??????side >――
ここは出現したばかりの迷宮の入り口。
警官や探索者協会の治安維持協力隊が誰も入れないように入り口を警備している。
その中の一人が近付いてくる人影を確認した。
「お爺さん。ここから先は立ち入り禁止だよ。道に迷ったんなら向こうの警官に――」
「いや、なに、ちょっと孫を迎えに行こうと思ってな」




