上の階のおはなし
目が覚めた。
身体を動かして異常を確認する。
固い床で寝たせいか、若干の違和感は感じるけど特に問題はない。
時間を調べようとスマートフォンをさがし、今手元に無いことを思い出した。
スマートフォンや腕時計は小春の『無限収納』の中なら大丈夫だと思ったが、間に合わずにすでに煙を吹いていたので、亡骸だけ『無限収納』に入れてもらっている。
先に小春のスキルを確認させてたら、壊れる前に収納できたかもしれなかったなぁ……
たぶん体感時間だと、6時間くらいは寝てしまったと思う。
「……あやねぇ?」
「おはよう、小春。よく眠れた?」
「ん~おはよぉ~」
私が起きたのに気づいたのか、小春も目を覚ました。
まだ頭が活性化していないのか、目の焦点が定まっていない。
ダンジョンの中に不似合いなほど全身から溢れるぽやぽやオーラに、こっちも二度寝したくなってしまう。
「小春、身体の具合はどう? どこか痛い所とか無い? 」
「ん~? うぅ~ん?? だいじょうぶ……」
ぼ~っとしながらも自分の身体の具合を確かめている小春。
く~るく~る、ぺったぺった、ぐっぱーぐっぱー、ぐい~ぐい~
身体を動かしてだんだん目が冴えてきたのか、水を収納から出して顔を洗い始めた。
私も水を出してもらって顔を洗う。冷たくて気持ちいい。
少し身体の臭いが気になったので、濡らしたタオルを使って身体も拭く。
あ~、早くお風呂入りたいっ。
「綾姉、お腹すいた」
小春のお腹が鳴った、とても可愛らしい音色だ。
そういえばダンジョンに入ってから、魔石と水以外口にしてなかった。
昨日も安全地帯に入ったらすぐに寝ちゃったし。
そう思ったら私もお腹空いてきた。
下の階層で収納してきた木の枝を使って火を起こす。修行の名目で裏山でのサバイバルに連れて行かれた経験が生きた。
毒殺していないほうのオークを解体する。食べたことがあり、安全だと確信できる部位のみを切り落とす。
フライパンが無いので、豚鬼の召喚剣ことオーク刀を横にして、その上にお肉を載せてフライパン代わりに焼いていく。
調味料も無いので、本当にただ焼いただけだ。
普通の豚肉に比べて脂身が少なく、それでいて噛めば噛むほど口の中に肉汁が溢れてくる。
小春を見ると無我夢中で食べている。
ほっぺたがハムスターみたいに膨らんでいる。
何この生き物、かわいすぎる!
確かにちゃんと調理したお肉にはかなわないし、塩だけでもあればもっとおいしく食べられただろう。
それでも今この瞬間だけは、私達にとって最高の味だった。
ちなみに例の謎フルーツには手を付けなかった。寝る前にパッチテストだけでもしておけばよかった。
☆ ☆ ☆
「小春、準備はいい?」
「オッケー」
サムズアップする小春も可愛い。
私達はこれから上の階層に挑む。
ここが普通のダンジョンなら、この階層のモンスターは昨日まで私達がいた階層より弱いはず。
十分な睡眠を取り、いっぱい食事もして、昨日とは違い私達の意思でダンジョンの階層に踏み入れる。
草原だった。
見渡す限りの草原。
所々に丘や林があるせいで、領域の壁も殆ど見えない。
風が吹いた。
草が風に流されて、その軌跡が感じられる。
これで天井がグレムリンの浮いてる岩肌じゃなくて、青い空だったら素敵な風景だったのに……
と言うか森の中でも思ったけど、何でダンジョンの中で風が吹くんだろう?
「綾姉、あれ」
「うん。いるね」
遠くに動いている集団が幾つか見える。
「たぶん小さな人間みたいなのはゴブリンだと思う。でも犬っぽいのは分からない」
ゴブリンは特徴的なシルエットだからすぐに分かったけど、犬系モンスターは種類が多くて見分け方なんて覚えていない。
燃えてたり、首が二つあったりするタイプは遠距離攻撃をしてくるらしいけど、オークより弱い階層にいるモンスターならしてこないはず。
そのうちの一組、ゴブリンの集団がこっちに向かって歩き始めた。
草も短くて遮蔽物が少ないから、どこにいるのかがすぐに分かる。奇襲を受けることは無いけど、逆にこっちも奇襲できないし、森の中みたいに木の陰や木の上を利用して逃げるのは難しそうだ。
ゴブリンが近づいて来る。小さな角が生え緑色の肌をした小人が合計6匹。身長は1メートルくらいで、武器は小さな剣と盾を持っている。
正直オークより危機感は感じないが、数が多いので念には念を入れて間合いに入る前に数を減らすことにする。
『兵隊蜂の毒針』のスキルで、そのうちの1匹に毒針を打ち込む。
1匹やられて驚き、2匹やられて理解し、3匹目で盾に防がれた。
「まかせてっ」
残り4匹……と思ったら、もう1匹に槍が突き刺さる。
隣を見ると小春がと目が合う。たぶん収納していたドロップアイテムの槍を投げたんだろう。
残り3匹が間合いに入ったので、『豚鬼の召喚剣』のスキルでオーク刀を両手に召喚する。
身を屈め、突撃し、勢いをつけて斬りかかる。
盾で防ごうとするが、盾に合わせてオーク刀を下に滑らせて足を断ち斬る。
自分より背の高い相手から足元を狙われるとは思っていなかったのか、理解できないでいるゴブリンの首を、勢いそのままに回転しながらもう一刀で刎ね飛ばす。
隣では小春が小太刀で盾ごとゴブリンの頭を貫いていた。
最後の1匹は、牽制のために毒針を打ち込むと予想通りに盾で防いでくれたので、その隙に死角から小春が一突きして終わり。
遠くを見ると最初に私の毒針にやられたゴブリンも毒で絶命していた。
近くにアイテムボックスが出現している。
ゴブリン集団の死亡を確認したところで、遠くからこちらに向かって来る気配を感じた。
先ほどの犬っぽいモンスターが2匹接近してくる。
「小春、このままいける?」
「もちろんっ」
さあ行こう。まずはこの階層の出口だ。




