魔石を食べたおはなし
「んっ」
小春が首の後から口を貫通している小太刀を引き抜くと、オークはそのまま倒れて動かなくなった。
確認すると3匹とも死んでいる。
奇襲した時の叫び声を聞いて、他のモンスターに気づかれなかったか気配を探ってみるが、それらしい気配は無かった。再ほどの戦闘が嘘のように静まり返っている。
「ふぅぅぅ……。何とかなったわね」
「緊張した」
えっ? 小春、緊張してたの?
見た感じ、いつも通りで「すごいな~」って思ってた。
私なんか緊張して、オークの首両断する時失敗しちゃったのに……
私が少し後悔していると、小春がオークの死体に触る。
「収納」
オークの死体が消えた。
うちの家族ではお父さんが『空間収納』を持っているから何度か見たことがかるけど、小春のは完全に別物だ。
『空間収納』は触れた後、対象物を覆うように魔法陣が発生し、対象物が完全に収納されるまでに2~3秒くらい掛かる。そして内部では現実と同じ時間経過がある。
それに対して『無限収納』は一瞬で収納できて、しかも中で時間経過が無い。
完全に上位互換のスキルだ。
「あっ、小春待って。魔石だけ抜き取らせて」
魔石とはダンジョンに生息するモンスターの体内に必ず入っている石のような物体で、未知のエネルギーが入っているらしく、有効活用できないか研究が進められている。
私の『魔石喰い』はその魔石を食べて発動するスキルだから、小春に収納したオークを一度戻してもらって魔石を摘出する必要がある。
オークを解体するのは初めてだけど、猪や熊なら家の裏山でやったことがある。
人型のモンスターは少し気が引けるけど、そうは言ってられる状況じゃないからね。
私がそうやる気を出して小春を見ると
「はい」
小春の手に魔石が乗っていた。
えっ?
「こ、小春、これどうしたの?」
「オークから魔石だけ取った」
「それってつまり、収納したオークの死体を出さないで、体内にある魔石だけを選んで取り出したってこと?」
「そう」
頭が痛くなってきた。
この子は自分が手に入れたスキルの危険性を本当に理解しているのだろうか。
「小春、このスキルのことは、おじさんに相談するまでぜっっったいに、誰にも言っちゃだめよ」
「わかった」
小春から魔石を受け取る。
深緑色の丸い石だ。血や肉片は付いていない。
「はむっ」
口の中に放り込んで、飴玉みたいに舌で転がしてみる。
「綾姉、どう?」
「甘酸っぱい」
小春がマネして余った魔石を口に入れているが、「味がしない……」と不思議な顔をしている。
たぶん『魔石喰い』を持った私にしか味は感じないんだろう。
そのままスキルの感覚にしたがって魔石を歯でポリポリと噛み砕く。
甘酸っぱさが強くなって結構きつい。
もったいないけどペットボトルに残っていたジュースを少し使って無理やり飲み込む。
「っ!」
飲み込んだ瞬間、私の意志とは無関係に身体が跳ねた。
その後、ジワ~とお腹から身体全体に何かが浸透していく感覚に襲われる。
「綾姉?」
「たぶん今、何かスキルを手に入れた……と思う」
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西風田綾乃
種族 :【人間】
レベル:【 1】
スキル:【魔石喰い】
『豚鬼の召喚剣』
オークを倒したからレベルが0から1に増えている。
そして、『豚鬼の召喚剣』と言うスキルを手に入れていた。
発動すると、さっきのオークが持っていた鉈みたいな剣が右手に現れる。
もしかしてオークの持ってた武器って自分自身で召喚してたの?
もう1回発動すると今度は左手にも現れたので、両手に持っていくつかの「型」をなぞってみる。
召喚した武器の能力なのか意外と違和感無く振れた。
「綾姉、カッコイイ」
「ありがと、それじゃスキルも確認したし、出口を探しに行こうか」
「んっ」
同種の魔石は複数食べてもスキルが増えたり強化されたりすることは無いので、残った魔石は小春にしまってもらって移動を開始する。
途中で何度かオークを見かけたけど、できるだけ戦闘は回避しながら森の中を進んで行く。レベルも上げたいけど、これから休めるか分からない以上、体力の消耗を抑えるほうが重要になる。
それでも戦闘は避けきれず、私と小春はレベルが3に上がっていた。死体は『無限収納』の容量の限界を確かめるためにも全て収納することにしている。
「綾姉、あれ」
小春に言われた方を見ると湖があった。
さらにその周りの木には緑色の果実が実をつけている。
たしか「ダンジョンの森のエリアにある湖や池の水は飲んでも問題ない」とダンジョン専門雑誌に書いてあったはず。
よかった、これで、飢えと渇きの心配は無くなった……。
オークの肉はすでに食用可だと分かっているし、水も『無限収納』に入れておけば好きなときに飲める。謎の果実を食べるのはちょっと怖いのでとりあえず小春にしまってもらって、どうしようも無くなったときにだけ手をつけよう。
手で掬って湖の水を飲んでみる。
嫌な臭いがまったくしないで、何の抵抗もせずに喉にスゥーと落ちていく。
「おいしい……」
喉が渇いていたからなのか、いくらでも飲めそう。
隣を見ると、小春も無我夢中で飲んでいる。
「あれ?」
小春の後の方の森に何かがいたような……
この時、私達は完全に油断していた。
いきなりダンジョンに放り込まれ、モンスターと戦い、ようやく見つけた水場に気が緩んでしまったのだ。
蜂がいる。
大きい蜂が、その針を小春に向けている。
小春は気づいていない。
このモンスターは知っている。
ソルジャービーと言われる針を飛ばして獲物を狩るモンスターだ。
「小春っ!」
針が放たれた。




