76騎 宴
白銀の村。村長の館で、アインツたちが膝を詰めて談義する。
「私たちの旅路で得た情報は、おおよそこのようなものです」
アインツが経験した数々の出来事を、クエスなど村にいた者たちへ話した。
冒険者として商隊の護衛をしたこと。
嵐の魔神、ストーリアの封印が解かれ、アインツがそれを抑えたこと。
「魔神を意のままに操ることができるようになるとはね。流石はアインツ君だよ」
クエスが感嘆する声に、なぜか我が物顔でうなずくクロノス。
辺境伯となったメルクリウスとの再会と貿易の話。
「商船との取り引きのおかげで、村の物資が多様化して、経済効果もあったのですよ」
クーネルは、貿易による恩恵があったことを伝える。
幽霊男爵アルフォンスの館の不思議な体験と、魔神の封印石を受け取ったこと。
アルフォンスから聞かされたゲートの話。異界門から現れる魔神の話も。
「私も魔神を使役することができるようになるとは思いもよりませんでした。
これもアインツ様が、私のために封印石をお持ち帰りくださったからです!」
『そうだにゃあ』
クロノスの肩の上で、子猫の姿の灯火の魔神、ランプがうなずく。
そして、オウリス平原での戦と、ガンツとの不幸な出会い。
エレーナとの別れ。
「エレちゃんが生きてたのが判って、何よりだったっスよ~」
「うん、よかったよね、エレちん。いま会えなかったのは残念だけど」
「てーちゃん、きっとまた会えるよ」
少し寂し気なてろてろの手に、クーネルが手を重ねる。
マイキーの念話でエレーナの生存が確認できただけでも、皆が救われた思いだった。
「そしてゴブリンの協力で、魔鉱石の一大産出地になったということでね、村も潤っているのだよ」
クエスの説明に、ジャイアントゴブリンのゴブリコが、恥ずかしそうに頭を掻く。
「これからは、村を豊かにして、さらに発展させていきましょう。
食料の備蓄量を増やし、特産品を作ります。
嗜好品や、芸術、娯楽にも投資できるよう、余剰を設けなくてはなりません。
まずは生きるということを安全、安心にできる村として、生産力を上げていくことを続けていきます」
南の川には、貿易の拠点として港を作り、漁業の船も併せて利用している。
倉庫街の様相を呈し始めていた。
東の森には、ゴブリンの洞窟から採れる魔鉱石と、林業の拠点が。
村の周辺には、耕作地帯が広がっている。
「それに、まだ荒れ地の開墾、住宅の整備など、人が増えた分だけ必要になりますが、労働力の増加は、生産力の向上にもつながります」
「そうだな。人もこれからまた増えるかもしれない。この村が、そういう者たちの救済の場になればよいな」
クエスの想いに、アインツも賛同する。
「ええ、困った人たちの駆け込み寺として、ここが安らぎの地になれるようにしていきましょう」
「ひもじい思いは、辛いっスからねー」
マイキーが茶々を入れると同時に腹の虫が鳴り、集まった者たちの笑いを誘う。
「このあたりでお昼にしませんか? 折角ですので、広場に宴会の用意もしていますから」
てろてろたちは、アインツたち帰還者と、ヴィルヘンドルたち新しい村人たちへの宴を用意していた。
「てろてろちゃん、その匂いが美味しそうで、お腹が鳴っちゃったっスよ~」
今にもよだれを垂らさんばかりの反応を見せる。
「そうですね、話も一区切りついたことですし、今日は目いっぱい、宴を楽しむとしましょうか!」
アインツの号令一下、皆が村長の館から、村の広場へ移動していく。
広場には、既に料理の準備が整えられており、村人たちが皆集まっていた。
「おお、鹿の丸焼きとは、すごいっスねー!」
「王都では見たことがない果物も、たくさんございますのね」
「食べるものに事欠いていた今までが、もう遠い過去のようだな」
貴族として、食べることに困らない生活が一変していた放浪の日々を思い、ヴィルヘンドルもカナーティアも、目頭が熱くなった。
「よーし、飲め飲め! 今日は弾けるぞー!」
「食う、飲む!」
ルミナイトやバルーガが、ゴブリンたちと杯を交わして、笑い合う。
ブレンは、焼けた肉を頬張り、それでも両手に持って、あちらこちらのテーブルを行き来する。
村中が、宴一色となる。
「なにもなかったこの場所に、ここまでの村ができたのは、クロノスさんや皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます」
「あ、アインツ様、そのようなお言葉、勿体ないです!
これも、白銀の守護者という名前と、アインツ様、あなたというカリスマがいたからこそ、です」
アインツとクロノスは、村人たちの楽しそうな笑顔とにぎやかな声を聞きながら、杯を傾ける。
「そんな、買い被りですよ。私はしがないサラリーマンですから」
「ですが、今は聖騎士として、立派にお役目を果たされておいでです」
「そうでしょうか。目の前で、守れないものがたくさんありました」
「そうかもしれませんが、今この村にいる者たちは、アインツ様に守っていただいたか、その守られていた者たちが助けた人々なのです。
アインツ様という太陽がなければ、雲散霧消し、今まで生をつなげることが難しかったことでしょう」
「私には、そこまでとは思えませんよ」
「混乱した世では、カリスマとシンボルを求めています。
そして何より、生きるということを。
アインツ様は、彼らにとって希望であり、安らぎであるのです。
聖騎士として、強さとリーダーシップをお持ちで、輝ける神のようなお方なのです」
クロノスは、杯を一気に煽る。
「あの強さは、美しかった……」
クロノスは、ローテフェザーとノイ・ブリュッケのギルド戦で見たアインツの強さと戦いぶりを見て、その力と、銀色に輝く姿の美しさに、憧れを抱くようになったのである。
「ギルド戦と言えば、村には他にも、アビスクロニクルプレイヤーはいたのですか?」
「ええ、数名はいますよ。レベルはそれ程でもなかったのですが、やはりプレイヤーだけあって、他の村人よりは戦闘向きの能力を持っています。
防衛任務には、頼りになる連中です」
「そうですか。それは頼もしいですね」
「訓練し、戦闘を繰り返すことで、徐々にですが、力を付けていっているようですし」
「いい教官に恵まれたのでしょうね」
アインツは、クロノスが、何気に教え上手であることを認めている。
ゴブリン学校の一件についてもそうだ。
「ははっ、恐縮です。アインツ様」
照れ隠しに、クロノスは子猫姿のランプを撫でる。
アインツが、クロノスと村の様子を見て、優しく微笑む。
日が暮れて、辺りを闇が覆っても、白銀の村の宴は続いていた。
「よーし、いくぞー!」
掛け声とともに、火の玉が打ち上げられると、夜空に大輪の花が咲く。
ほんの少し遅れて、大きな爆発音が、見る者の全身を揺らす。
大型の花火が、続けて打ち上げられ、夜空を明るく照らし出す。
「スッゲー!」
「きれーい」
花火など見たことも聞いたこともない村人たちは、この光景に初めは驚き、戸惑ったものだが、だんだんと慣れていくにつれて、楽しみ方が理解できた様子だった。
「やっぱり、祭りと言えば花火でしょ!」
クーネルが、火薬の調合や打ち上げのサポートを魔法で行う。
次々と打ち上げられる花火に、村のあちらこちらから歓声が上がる。
「いいぞー!」
「もっとやれー!」
その花火の中に、黒い影が浮かび上がる。
「なん、だ?」
黒い影の中から、光が一瞬見えたかと思うと、料理の乗っているテーブルに、雷が落ちた。
その影から、帯電した姿の娘が現れる。
「ゲ、ゲート……っ!」




